こんなプランを価格競争の末ではなく、初手から繰り出されたら他社は真っ青である。実際、アハモの発表からまもなくして、auから新プランが発表されたが、各種サービスに付帯した割引を利用しなければ安くならない料金設定になっていることから、「期待外れ」との声が溢れた。「さよならau」「au解約」がツイッターでトレンド入りしたほどだ。

かねて菅首相は「携帯電話料金は今より4割程度下げる余地がある」と公言してきた。アハモは菅首相の言葉を実証したわけで、メインブランドの料金体系を守ろうとしてきたKDDIやソフトバンク、後発の楽天は顧客引き留めのためにせいぜい同じような内容で対抗するしかない。その場合でも、回線の質や地域カバー率で勝るNTTドコモに乗り換える顧客は出てくるので、流出の完全ストップは難しいと思われる。KDDI、ソフトバンク、楽天の3社が「不公平だ」と訴えても、NTTドコモは「政府に言われたことをやったまでだ」と言えば、3社はぐうの音も出ない。

それにしても、NTTドコモはなぜこれほど太っ腹な料金プランを打ち出せたのだろうか。

まずアハモは、オンライン契約専用のプランである。各種申し込みやサポートはすべてオンライン経由で、いわゆるドコモショップやコールセンターでの対応は原則行わない。その分、店舗コストや人件費がかからないからプラン料金を下げられる、という理屈もなくはない。

一方で受付窓口をオンラインに限定すれば、インターネットに疎かったり、スマホに不慣れな年配ユーザーはそう簡単にアハモにプラン変更や乗り換えをしないし、できない。したがって、割高な既存プランのまま使い続ける利用者が相当いると思われる。

もっと言えば、富裕層は自動的に口座から引き落とされる携帯電話の料金なんて気にもしていない。当然、NTTドコモの新プランにも関心はないし、プラン変更や乗り換えなんて面倒くさいだけだ。

実はドコモのみならずNTTの収益の柱になっているのは、そのような価格に鈍感なユーザー「富裕層鈍感」と私が呼んでいるセグメントなのだ。

NTTには知られざる強みと足かせがある

格安プランを可能にするNTTドコモの強みはほかにもある。この先もまだまだ固定投資が必要なKDDIやソフトバンクに対して、NTTドコモは基幹通信網などの固定投資がほぼ済んでいる。

日本電信電話公社の分割民営化でNTTが発足したのは1985年。まず88年にNTTデータ、92年にNTT移動通信網(現NTTドコモ)が分社化された(当時私はマッキンゼーにいて、このプロセスをいろいろアドバイスした)。99年には東西の地域会社であるNTT東日本と西日本、長距離・国際通信事業を担うNTTコミュニケーションズが誕生する。