イヤな老害にならずに済んでよかった

2020年11月1日、私はセミリタイアに合わせて東京から佐賀県に引っ越した。その前の月である10月には、1日に2~3回は「会いませんか」「飲みませんか」といったお誘いをいただいた。前述したとおり、90%は年下からのお誘いだ。皆さん口々に「寂しくなります」「いろいろ楽しかったですね」「これまでありがとうございました」「近いうちに佐賀へ遊びに行きますよ」「東京にいらっしゃるときはぜひお声かけください」などと言ってくれた。ありがたいことだ。

土谷棚田
写真=iStock.com/T_Mizuguchi
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こうした温かい声を若者からかけてもらったときに、しみじみ思ったのは「イヤな老害にならずに済んでよかった……」ということだ。自分が年上から受けたよい扱い、悪い扱いの両方を理解したうえで、若者に対して私なりに誠実に接した結果、こうして「有終の美」を飾ることができたのだ。東京で過ごした最後の1カ月間、私のことを次々に連れまわしてくれた愛すべき若い皆さんには、本当に感謝している。

年齢に関係なく、互いに学び合える関係性を目指して

そして、これまた感激したのだが、私が佐賀県でそれなりに楽しそうな人生を送っていることをSNSや記事で発信するようになったのを受けて、若者たちが佐賀まで足を運んでくれるようになったのである。佐賀行きのきっかけを作ってくれたライターのヨッピーさん(やはり年下)が中心となり、東京の編集・ライター・IT界隈の人々が佐賀に暮らす私を訪ねるという「中川まつり」が企画された。

メンバーを見ると、編集プロダクションの株式会社ノオトで代表を務める宮脇淳さんは私よりも1歳年上だが、その他は全員年下である。そんな人々が「中川さん、佐賀でちゃんと生きてるのかな、ウヒヒ」とばかりに、大挙して顔を見に来てくれたのだ。こんなにうれしいことがあるか! さらには、近々予定されている東京出張の話をしたところ、若者から「それなら『中川さんをもてなす会』を企画しますよ!」と言ってもらえた。

また最近では、福岡の若手のライター軍団からも「ぜひ会いましょう!」「話を聞かせてください!」と宴席に誘ってもらったりしている。

当然、こうした場で私は、若い彼らに対してエラソーにならないよう留意するし、丁寧な言動で接することを心がけている。こちらの経験や知見をもとに伝えられることは伝えるが、一方で、彼らから学べることがあれば素直にコウベを垂れて学ぶ。

このように、年齢に関係なく、相互に学び合える関係性にこそ発展性があるのではないだろうか。「年齢」を無駄に意識するばかりに、エラソーにしたり卑屈になったりする必要はない。触れ合う人すべてに「丁寧」に接すればいいだけなのである。