ビジネスライク派の職人と庶民派の職人
【寿司】おまかせの価格をいくらで設定するのかは、大将=経営者としてのスタンスが問われますね。ビジネスライクにお店を経営するのか否かという方針は大将=経営者としての価値観が大きく影響しているんですね。
【大将】だんだん売り上げが上がってくると、「老後の保険」のことを考えたりするんだよね。子供のためとか、自分や家族の将来を考えると、もう少し価格を上げようかという思考になる大将は多いみたい。仲の良い大将と飲みながらそういう話をよくするね。
【寿司】寿司職人から「老後の保険」の話が出てくるとは。これは意外(笑)。
【大将】あと「もうけたい!」という欲求が強いビジネスライクな大将は、若い頃の「反動」があるかも。
【寿司】若い頃の反動?
【大将】どうしても寿司職人は、18歳ごろから数十年、安い給料で厳しい修行生活を過ごしていた人が多いから、そうした下積み時代の反動で「自分で店を経営してもうけて、いい生活をしたい!」という野心がある人は多いだろうね。
【寿司】ビジネスライクな職人なのか、庶民派の職人なのか……。どちらがいい悪いではなく、お客さん側も食べ歩きをする中で、自分の価値観とマッチする寿司屋に出会えればいいですよね。私の場合は、ビジネスライク派よりも、庶民派の寿司屋の方が、結果的にリピートする傾向にあります。これは本当に価値観の話なので、合う寿司屋、合わない寿司屋が出てくるのは当然だと思います。
【大将】「4万円を払ってでも日本最高峰のマグロを食べたい」「そこそこのネタを技術でおいしくしてくれる1.5万円の寿司を食べたい」など、お客さんのニーズもさまざまで、そのどれもが正解。われわれ寿司屋側もお客さんのニーズをくみ取ることは大切だけど、自分自身の哲学、価値観を貫くことで、それを受け入れてくれるお客さんもついてくる。カウンター8席が毎日埋まってくれれば、食っていける。時間はかかるけど、自分を信じて、愚直にやるしかない。
寿司屋の大将は1人3役をこなしている
【寿司】私が寿司屋の大将をリスペクトしていることのひとつに「1人で3つの職業をしなければいけない」ということがあります。こだわりの料理を提供する「料理人」、居心地の良いサービスを提供する「サービスマン」、そしてお店を運営する「経営者」。この3つの職業を1人でやらねばいけないのがとにかくすごい。
【大将】「夢だけでは寿司屋はできない」んだよ。経営観点は必須。雇われの大将よりも1年間での経験値はかなり多いと思うよ。全部自分で判断しないといけないからね。営業電話も毎日かかってくるし、だまされたことも何度もある。どの大将にもストーリーがあり、いろいろな事情があって、価格設定、経営をしているんだ。いい悪いではなく、人それぞれだよ。
【寿司】われわれお客側もリスペクトの気持ちで寿司屋に足を運ぶべきだと改めて感じました。ありがとうございました。