なぜ『鬼滅の刃』は大ヒットしたのか。精神科医の樺沢紫苑氏は「この父性渇望の時代に現れた、超骨太な父性漫画だったからではないか。その象徴が、竈門炭治郎の師匠・鱗滝左近次という人物だ」という――。(前編/全2回)
※本稿は、樺沢紫苑『父滅の刃 消えた父親はどこへ』(みらいパブリッシング)の一部を再編集したものです。
なぜここまでの大人気作品となったのか
漫画、アニメ界における近年最大のトピックは、『鬼滅の刃』の大ブームです。これに異論がある人はいないでしょう。まさか、『ONEPIECE』を抜く漫画が現れるとは……。
単発のコミック売り上げ部数で『ONEPIECE』を抜き、2020年2月10日付のオリコン週間コミックランキングでは、1位から10位までを完全独占するという史上初の快挙! さらに、11月30日発表の年間コミックランキングでは、調査時点での既刊22巻が1位から22位を独占しました(最終23巻は12月4日発売)。
また、第20巻では初版280万部という、これまた記録的初版部数を達成。ビジネス書で100万部を超える本すら滅多に出ない中、『鬼滅の刃』は国民的人気と言っても過言ではないでしょう。
なぜ、『鬼滅の刃』は、ここまでの大人気作品となったのか? キャラが魅力的、アニメの出来が良かった、背景の大正ロマンが若者に新鮮だった、など様々な分析があります。どれも「後付け」というか、キャラが魅力的でアニメの質が高くても、ここまで大ヒットする作品は生まれていないので、何の説明にもなっていません。しかし『鬼滅の刃』を「父性」という切り口で見ると、この作品の本当の魅力と、なぜここまで多くのファンの心を掴むのか、その理由は明確になります。
『鬼滅の刃』は、2019年4月から放送されたアニメ版から大ブレイクしました。私は友人の勧めもあって、まずは漫画を読んでからアニメ版を見ました。漫画を読んだ直後に思いました。「この父性渇望の時代に、超骨太な父性漫画が現れたものだ」