社内失業者を整理すれば生産性は上がる

各国の労働生産性を比較すると、驚くべき事実が分かります。

日本はドイツや米国など生産性の高い国と比較して、同じ金額を稼ぐために1.5倍の人数を投入しています。日本人の労働者は米国人やドイツ人よりも著しく能力が低く、1.5倍の人数を投入しないと同じ仕事ができないのでしょうか。

そうではありません。

つまり1.5人のうち0.5人は、事実上、仕事をしていない状況であり、まさに先ほどの社内失業状態になっている可能性が高いのです。つまり日本全体で見た場合、かなりの労働力を無駄に捨てており、これを解消するだけでも劇的な効果が得られます。

理屈上、社内失業している400万人がいなくても、会社の業務は回るわけですから、この人材が他の事業に従事すれば、そこで所得を得ることができ、日本人の所得の総額が増えます。しかも、ひとつの事業に従事する社員の数が減りますから、当然の結果として平均賃金は上昇していきます。

つまり事業を最適化して、生産性を上げれば、おのずと賃金は上がっていくのです。賃金が上がると、消費が拡大しますから、企業業績は上向き、これがさらなる賃金上昇をもたらすというプラスの循環が生まれます。

経営者は「儲かるビジネス」に注力せよ

企業が儲かるビジネスばかりに注力したら、付加価値が低いビジネスを担う企業がなくなってしまうと主張する人がいますが、そんな心配はまったく必要ありません。

例えば、ある企業の一部門に1000人が雇用されており、経営者の判断によってこの部門からの撤退が決断されたとします。その部門が作っていた製品やサービスに対するニーズがゼロであれば話は別ですが、実際にはそんなことはなく、ニーズはあるものの利益率が低いことが撤退の理由なはずです。

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もしそうであれば、撤退した部門を競合となる企業が買収したり、従業員を引き取るといった形で事業そのものは継続される可能性が高いでしょう。部門を引き受けた会社の従業員数が1000人だった場合、一気に事業規模が倍になりますから、市場でのシェアが上がり、顧客に対して強気の価格設定ができるようになります。シェアが拡大した企業の付加価値は上昇しますから、従業員の賃金もやがて上昇していくでしょう。

つまり、ある企業が儲からない事業から撤退した場合、その事業が消えるのではなく、買収や合併などを通じて、それは儲かるビジネスへと変貌を遂げるのです。

近年、業績が好調であるにもかかわらず希望退職を募る企業が増えています。こうした動きは企業の組織再編が進み始めている象徴といってよいでしょう。

したがって、企業経営者というのは、常に儲かるビジネスに専念するという方針を愚直に進めればよく、結果的にそうした行為は従業員の賃金上昇につながっていきます。この愚直な施策を徹底して実行できるかどうかが、経営者としての腕の見せ所なのです。

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