先進国のうち実質賃金が上がっていないのは日本だけだ。なぜ日本は「貧しい国」になってしまったのか。経済評論家の加谷珪一さんは「会社員の1割は仕事をしていない。そうした社内失業者の存在が日本経済を低迷させている」という――。

※本稿は、加谷珪一『貧乏国ニッポン ますます転落する国でどう生きるか』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

あくびをするアジア系ビジネスマン
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なぜ企業は「設備投資」を増やさなかったのか

「失われた20年」を終わらせようと、2012年から始まったアベノミクス。主要な政策である量的緩和策というのは、日銀が大量に国債を購入して大量の貨幣を供給し、市場にインフレ期待を発生させるというものでした。インフレ期待が醸成されると、本来であれば金利が上昇するはずですが、日銀が国債を買い続けるので金利は上昇しません。

そうなると、名目金利から物価上昇率(この場合は期待インフレ率)を差し引いた実質金利が低下し、企業の設備投資が促されて、これが経済成長の原動力になるという仕組みです。金利が低下すると設備投資が拡大し、これがGDPを増やすというのは、マクロ経済における基礎的な理論であり、特段、目新しいことではありません。

しかし、期待したような成果が上がっていないことから、世の中では物価上昇が進んでいないことを問題視する意見が多いのですが、重要なのはそこではありません。インフレ期待が生じたにもかかわらず、企業の設備投資がまったく促進されなかったことが問題なのです。

実質金利が低下したにもかかわらず、設備投資が増えなかったということは、そこには何らかの理由が存在するはずであり、ここを明らかにしなければ、正しい処方箋を導き出すことはできないでしょう。