公明党にとって、菅政権は「御しやすい」

【佐藤】山口さんが勝利を勝ち誇ったように語る一方で、安倍さんはいたたまれない思いだったはずです。自身の「一丁目一番地」たる安全保障問題で、換骨奪胎の妥協を余儀なくされてしまったのですから。こうした経緯から明らかになってくるのは、連立政権の内部で、じつは公明党がいかに大きな実権を握っていたのかという現実です。公明党は、外から見ている我々が想像する以上に、現実の政策の遂行にかなりの影響力を持ち、実際に行使していたと認めるべきでしょう。

手嶋龍一・佐藤優『菅政権と米中危機 「大中華圏」と「日米豪印同盟」のはざまで』(中公新書ラクレ)
手嶋龍一・佐藤優『菅政権と米中危機 「大中華圏」と「日米豪印同盟」のはざまで』(中公新書ラクレ)

【手嶋】公明党の側からすれば、右派の政治思潮を体現する安倍政権に較べて、菅政権はイデオロギー色が希薄なだけに、より御しやすい側面があるのでしょう。その分だけ、菅政権は、重要な政策課題で公明党により妥協を強いられることになる。憲法改正という大きな政治目標を抱える安倍さんだったからこそ、公明党とも「ここまでは譲れない」という境界線があったのですが、菅さんには明確な政治理念が見当たりません。そうなると、菅政権は、公明党と妥協を重ねていくうち、連立相手にぐっと引き寄せられてしまう可能性が出てきますね。

【佐藤】ええ、気がつけば、菅政権は、公明党が実行したい政策を実現し、公明党支持者を喜ばせる「機関」になりかねない。そうなれば、「自・公政権」ならぬ「公・自政権」の出現になる。そういう可能性を「フィクション」として切り捨てるわけにはいかないと私は見ています。

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