6000人弱の社員が辞めた会社

無論、低収入が即“訳アリ”会社というわけではない。ワーストワンとなったトスネットは、宮城・仙台市が拠点で、建築現場やイベントなどの雑踏警備が主業務。しかし、236万円という平均年収とは裏腹に、業績は好調。JR東北本線や北陸・東北新幹線の線路内で行う工事の安全確認作業が高収益だ。

「線路内で列車が来たことを、現場に赤・黄色の旗で知らせる。警備職はアルバイトが多く、月給制・固定給制がないから」(同社経理部)

トスネットと2704円の差で2位となったタイセイは、大分県が拠点。中小の菓子店などに菓子・パンの包装材などを通販で販売する。パート女性が主体で、前回調査まで2年連続ワーストワンだったが、05年の上場から経常連続増益を継続。前期の経常減益は広告宣伝への注力が主因で、ほぼ想定内だった。

婦人向け補整下着や化粧品販売のマルコ(3位)も、タイセイ同様に女性職員が主体で、前回から26万円減の259万円。不採算店舗の統廃合で、前期に社員が396人減の2464人(2009年8月末時点)となった。

この2社に限らず中央集約型の企業が多いのは、このランキングの毎年変わらぬ特徴でもある。2010年8月にイオン系カジュアル衣料品のコックスと合併、上場廃止となったブルーグラスの平均年収は287万円(コックスは444万円)。コックスの広報担当によれば、「統合直後は(双方の給与は)そのままの水準を維持。これから新しい人事制度を立ち上げるが、どちらかに金額を“寄せる”ことはしない予定」という。

ワースト20社中、唯一の東証一部企業である田谷(8位)は美容室チェーン。「TAYA」や低価格の「Shampoo」を展開するが、実力主義と社員の独立志向で淘汰が激しいのが低賃金の主因だ。

前回調査で278万円、282万円とそれぞれ4位、5位に並んでいたのが、メーカーへの人材派遣・業務請負のワールドインテック(以下W社)とトラスト・テック(以下T社)。今回、W社は製造現場の社員が327万円(管理部門の社員431万円)、技術者派遣に特化したT社が377万円と急上昇し圏外に去った。

08年秋のリーマン・ショックによるほぼ全業種にわたるメーカーの減産のあおりを食って、08~09年の間にT社は700人弱、W社に至っては実に6000人弱もの社員を減らしている。W社側は、「人員削減後、個々の社員の残業が増えたのが上昇の原因。今は、円満退社した人や契約終了を機に辞めていた人に声をかけており、相当数が戻っていると思う」、T社は「2010年6月末までの1年間に減った従業員160人のうち、100人程度はグループ子会社への移転によるもので、グループ全体としては(社員数は)あまり変わっていない。辞めた社員は契約満了か自主退社」という。

最近は回復基調で、W社は09年に前年比5割カットした役員報酬を元の水準に戻した。T社も自動車・電子機器・半導体関連の需要回復で2010年6月期も大幅な増収増益予想。リーマン・ショック前以上の業績を見込んでいるという。

この両社がまさに典型だが、ここ数年の景気の荒波が、ランキングのところどころに垣間見える。

※すべて雑誌掲載当時

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