リーマン・ショック以降、不況がサラリーマンの懐を直撃、給料が崩壊した。昇給ストップ、ボーナスカット……、実に上場企業の74%が平均年収を下げた。もはや給料アップは期待できない。非常事態だ。
管理職に厳しい人事制度の変更
年収の増減は企業業績というマクロ的要因に大きく左右されるが、月給低迷、年収減少を促しているもう1つの要因が近年の人事制度の動向である。日本企業の賃金制度は従来の「職能給制度」から「役割・職務給制度」に大きく舵を切っている。
職能給とは新入社員から一人前になるまでどのような職務遂行能力が求められるかを段階的に定義し、社員がその基準に合致すれば賃金を支払う仕組みだ。役割給とは簡単にいえば、職能給制度が本人の能力など「人」を基準に決定されているのに対し、「仕事」を基準にする。
つまり、年齢や能力に関係なく本人が従事している職務や役割に着目し、同一の役割であれば給与も同じにする。つまり、ポスト(椅子)で給与が決定し、ポストが変われば給与も変わり、当然ながら降格・降給が発生する。
厚労省の就労条件総合調査(09年)によると、管理職の基本給を役割・職務給型にしている企業は約41%、従業員1000人以上の企業では64%に上る。じつは07年5月に日本経団連は従来の職能給に代わる役割給制度の導入を呼びかける提言を発表している。
最大の狙いは「職能給制度でも能力評価が客観的にできるような形で運用されていれば問題はないが、評価の基準があいまいだ。役割給により年功色を払拭できる」(当時の経団連幹部)ことにある。
役割給にすれば、若くても優秀な人材を抜擢できる一方、職責を全うできない社員は随時降格できる。つまり、会社にとっては年功で自動的に給与が上がることがないために、総人件費の枠内で人件費を操作することが容易になる。従来の固定費の流動費化の実現だ。
この制度の影響はすでに出ている。前述したように厚労省の調査では大企業(資本金10億円以上、従業員1000人以上)の年齢階層別の賃金は09年度は30~59歳で前年比マイナスになっている。ここにも役割給による管理職の人件費管理の効果が出ていると見てとれなくもない。
また、周知のように管理職にはラインの管理職もいれば、肩書だけの部下なしのスタッフ管理職もいる。厚労省の役職別賃金調査によると、08年以降、部長級、課長級の給与は減少している。
具体的には09年の部長級(51.6歳)の平均年間賃金は前年比マイナス2.2%の1025万円、課長級(47.3歳)はマイナス1.5%の832万円となっている。業績低迷と人事制度のダブルパンチの影響が出ている。