大阪都構想とは、大阪府と大阪市の間で大問題になっていた二重行政の弊害を解決するための手段であった。しかし府知事と市長を同じ大阪維新の会が担う現在の体制によって、弊害の多くは沈静化した。それでも「病」を再発させないためには都構想の実現が必要だというのが維新の主張だったが……。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(12月15日配信)から抜粋記事をお届けします。

「病気」の治療に成功した大阪市で都構想という手術を行う難しさ

前回のメルマガでは政治・行政上の問題を「病気」、改革による正常化を「治療」になぞらえて解説した。これまで大阪では、大阪維新の会の「政治」という治療によって、大阪府と大阪市の対立という病気を抑えてきたが、「政治」がどうなろうとも二度と府市の対立を再発させないためには外科手術が必要だ。その外科手術に当たるのが、まさに「大阪都構想」だった。

ただし外科手術なので血を流し、命を落とすリスクも0ではない。

いったん治療が成功して病気が治っているように見えるのに、今後の病気の再発を根本的になくすために身体にメスを入れる手術までやるか否か。こうした「予防的手術の是非」という問いを突き付けられたのが、大阪都構想の住民投票を迫られた大阪市民だった。

そして結果は、否決。大阪市民は予防的手術を拒んだ。

人間は、本質的・本能的に変化に対して「過度の不安」を感じる。変化に対する不安を避けるために、現在の問題点に目をつぶってしまうものだ。

大阪市民は、大阪都構想という予防的手術に対する不安を避けるために、府市対立の再燃という問題点に目をつぶってしまった。

この市民の判断が愚かだったということではない。僕ら大阪維新の会が、市民の不安を払拭するだけの力を持っていなかっただけだ。

「大阪市をなくすな!」のワンフレーズに敗れた

大阪都構想の住民投票においては、大阪都構想に関する論理的な論争よりも、結局最後は、「大阪市を残せ!」「大阪市をなくすな!」というこのワンフレーズによって都構想反対のうねりが起きた。

橋下 徹『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』(プレジデント社)
橋下 徹『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』(プレジデント社)

賛成派は、「大阪市はなくなるものではない。あくまでも大阪市役所を作り直す話だ」ということで反論したが、その力は弱かった。

多くの大阪市民は、大阪市がなくなるのではないかということについて、とてつもない不安感を抱いていた。ゆえに「大阪市がなくなる!」「大阪市を残せ!」のフレーズはあまりにも巨大で強力な力を放った。

過去について「たら・れば」の話をしても仕方がないが、もし大阪都構想の案を作る際に、「大阪市」という名称をすべて残す案にしていたら住民投票の結果はどうなっていただろうか? 特別区の名称を「大阪市北区」「大阪市中央区」「大阪市淀川区」「大阪市天王寺区」とする。大阪市歌も大阪市旗も、施設や地位団体に冠している「大阪市(立)」という名称もすべて残す案だったらどうだっただろうか?

それは「大阪市というものはすべて残しますよ!」という強烈なメッセージになったと思う。

(ここまでリード文を除き約1000字、メールマガジン全文は約1万字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》Vol.228(12月15日配信)の「本論」から冒頭部分を抜粋したものです。もっと読みたい方は、メールマガジン購読をご検討ください。今号は《【都構想後の大阪成長戦略(2)】大阪市は残った。だからこそ重くなる「維新」の役割》特集です。

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