新たに設けられた6つの診断基準
2018年、WHO(世界保健機関)が定めたさまざまな精神疾患の分類であるICD(国際疾病分類)が約30年ぶりに改訂されたのですが、そのICD-11(第11回改訂版)ではいわゆるセックス依存症を「強迫的性行動症(Compulsive sexual behaviour disorder)」という精神疾患であると認定したのです。
翻訳されて日本で適用されるにはまだ少し時間がかかりそうですが、それによって新たに「強迫的性行動症」という病名が加わることになります。
強迫的性行動症の診断基準には、次のような6つの項目があります。
(1)強烈かつ反復的な性的衝動または渇望の抑制の失敗
(2)反復的な性行動が生活の中心となり、他の関心、活動、責任がおろそかになる
(3)性行動の反復を減らす努力がたびたび失敗に終わっている
(4)望ましくない結果が生じているにもかかわらず、またそこから満足が得られていないにもかかわらず、性行動を継続している
(5)この状態が、少なくとも6カ月以上の期間にわたって継続している
(6)重大な苦悩、および個人、家族、社会、教育、職業、および他の重要な領域での機能に重大な問題が生じている
過剰なセックス、マスターベーション、ポルノ視聴、性風俗店の利用など、日常生活に大きな支障が出てもその行為をやめられない人は、この強迫的性行動症に該当すると考えられています。
しかし現時点では、WHOは強迫的性行動症そのものを「依存症」というカテゴリーに分類していません。いまだ研究の歴史が浅く、データ不足や議論が尽くされていないのが現状です。
「性欲が強いから発症する」というのは間違い
性依存症は、犯罪性のあるものとないもの、「非合法タイプ」と「合法タイプ」に分けられます。
犯罪性のある「非合法タイプ」はさらに痴漢や小児性愛障害(ペドフィリア)、強制性交などの「接触型」と、盗撮やのぞき、露出など、直接他人には触れない「非接触型」に分類されます。
犯罪性のない「合法タイプ」には、不倫や風俗通いがやめられない、自慰行為がやめられない、サイバーセックス(インターネットを介して性的興奮を得る行為)に耽溺する、服装倒錯(下着窃盗などを伴わないもの)など、倫理的には問題があるとしても犯罪性のない行為が挙げられます。セックス依存症は、基本的にこの犯罪にならない合法タイプの性依存症を指します。
本書では、セックス依存症を広義での「性依存症」の一部と捉えて解説していきます。
セックス依存症と聞くと、どんなときでもセックスのことを考えていて、セックスをしたくてたまらない、性欲が人一倍強い人がなる病気……そんなイメージを抱く人も多いかもしれません。
しかし、実はセックス依存症の本質は「性欲の問題」ではありません。実際はもっと複雑で、さまざまな複合的要因が絡み合った問題なのです。