回復をさまたげる「共依存」という落とし穴

ここで、当事者の家族や援助者が陥りやすい「共依存」のパターンを3つ紹介しておきたいと思います。

(1)否定的エンメッシュ(否定的コントロール)
他人の世話を焼き、他人に頼られることで自分の存在を認めさせよう、それによって自分の安全も得ようとする態度のことをいいます。

(2)救世主願望(メサイアコンプレックス)
「困っている人を自分が助けたい」「人の役に立ちたい」という考え自体は否定されるものではありませんが、その背景に劣等感や自己肯定感の低さがあると、「満たされない自分を満たすために人を利用する」という関係性になります。

つまり、自分の自己肯定感を高める道具として他者を利用するということになります。

(3)治療中断に対する恐怖心
当事者が自分(援助者)を見捨てて離れていってしまうことへの恐怖心から、伝えるべきことが伝えられず、間延びした関係性を続けてしまうことをいいます。

本来、当事者が援助者から離れて自立していくことは「自分の力でなんとかやっていける目途がついた」というサインでもあるため、援助者自身の「見捨てられ不安」についても自覚的になる必要があります。

共依存のバリエーションは豊富で、援助者も気づかないうちにその関係性に酔ってしまうことがあります。

支援者も自分自身と向き合わなければいけない

知らない間に当事者と共依存関係に陥り、「本人のため」と思ってしたことが実は自分自身の不安をケアするためで、本質的には当事者の自立のサポートにつながらない行為を繰り返している援助者のことを「プロフェッショナル・イネーブラー」といいます。

こういう名刺は持ちたくないですが、案外気づいたらこのような膠着した二者関係に陥っている援助者は多く、だからこそ援助者自身の健康性や対人関係のパターンをチェックしておく必要があると思います。

しっかりと手を握る2人の女性
写真=iStock.com/Ivan-balvan
※写真はイメージです

依存症者が自身の問題と向き合い、適切な治療と回復につながるには、その問題や失ったものをきちんとオープンにして、勇気を持ってイネーブラーが支えている手を離し、関係者が足並みを揃えることが不可欠です。

セックス依存症も他の依存症と同様、単に本人の問題行動だけに注目するのではなく、周囲に潜在するイネーブラーの存在も視野に入れて治療戦略を立てていく必要があるでしょう。

やがて、イネーブラーは家族会や自助グループに参加し、そこで仲間とつながって自身の回復に取り組むことで、当事者への対応や距離の取り方を学び、当事者の回復の伴走者となるキーパーソンに成長していくのです。