日本政府はバイデンを説得せよ
だが問題はそれにとどまらない。バイデン次期大統領が、日本、オーストラリア、韓国の首脳との電話会談において、「繁栄して安定したインド太平洋」を求めると発言し、まだ一度も「自由で開かれたインド太平洋」という言葉を用いていないからだ。
その真意は明らかではないが、おそらくこれは中国に対する配慮というよりは、むしろトランプ政権の外交との差異化を図るために、あえて同じ内容の言葉を、異なる用語により説明しているのであろう。
いずれにせよ、日米が異なる用語を用いることは、その結束を示す上で賢明とは言えないために、日本政府は執拗に、バイデン次期政権の政権移行チーム、さらには政権成立後のカウンターパートに対して、「自由で開かれたインド太平洋」構想がトランプ政権の付属物ではなく、現在では国際社会に広く浸透している日本のイニシアティブであることを説明するべきだ。
総合的視野からの外交戦略の再構築を
同時に、バイデン次期政権における同盟重視路線が同盟関係に新たな難問と緊張をもたらし、さらには気候変動重視路線と多国間国際機構重視路線が米中対話の拡大をもたらすものであることを想起して、新しい構想力と柔軟性、さらには戦略性を前提にした外交が必要になることを十分に認識せねばならない。個別的に、従来同様の対米政策と対中政策を継続していれば、必ず矛盾や軋轢に帰結することになるであろう。
おそらく、バイデン政権はアメリカの国際的なリーダーシップを回復して、日米同盟強化のために意欲的な姿勢を示すことになるであろう。それ自体は、歓迎すべきことであり、日本の国益にも資するはずである。だが、同時に、矛盾するようであるが、日米関係は新しい困難な時代に突入する。
バイデン大統領とトランプ大統領が、どちらが日本にとって好ましいか、という不毛な問いを続けるようなことはせずに、どのような政権や大統領であろうとも、日本の国益と安全を守るために、総合的な視野からの新しい戦略を構築し、それを提示していくことが求められているのだ。