アメリカと中国という大国のはざまにある日本は難しい外交を迫られている。慶應義塾大学の細谷雄一教授は「日本政府においては、対米政策と対中政策が、それぞれ個別的に進められている。日本の公益と安全を守るために、総合的な視野からの新しい戦略が必要だ」と指摘する——。(後編/全2回)
ベトナムが議長国となってオンラインで開催された東アジア地域包括的経済連携(RCEP)首脳会議での、各国首脳によるRCEP協定署名式(2020年11月15日)
写真=AAP/アフロ
ベトナムが議長国となってオンラインで開催された東アジア地域包括的経済連携(RCEP)首脳会議での、各国首脳によるRCEP協定署名式(2020年11月15日)

中国主導のRCEPに困惑しつつ、TPP復帰も困難なアメリカ

前編で論じたように、バイデン政権が同盟国により大きな責任を突きつけるならば、アメリカ政府と同盟国との間には新しい種類の軋轢が生じることになるかもしれない。

たとえばアメリカの同盟国である日本や韓国が、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に参加してアメリカ抜きで中国との経済関係を深めることになれば、それはアメリカに新しい苦悩をもたらすことになる。アメリカ抜きの中国を中心とした貿易ブロックが東アジアに誕生することに、すでにアメリカ国内からは不安の声が聞こえる。

バイデン次期大統領は、「世界から引きこもるのではなく、世界をリードする準備ができている」と語り、「アメリカは戻った」と高らかに宣言した。だとすれば、アジアやヨーロッパの同盟国やパートナー諸国へと働きかけて、アメリカを中核としたより緊密な自由貿易体制を構築することを目指すはずだ。

しかしながら、上院で共和党が多数派であることからも、また大統領選挙で想像以上にトランプ大統領への支持が広がっていたことからも(2016年よりもトランプ氏の得票数は多い)、アメリカが「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」に参加するハードルはきわめて高い。そこにアメリカ外交の困難が横たわっている。

アメリカ抜きで回復する東アジアの経済交流

すなわち、インド太平洋地域においてバイデン次期大統領は、RCEPを通じて進行する中国を中心としたより緊密な東アジアの経済的相互依存という現実に直面することになる。その傾向は、コロナ禍の中で先行的に進む日本と近隣アジア諸国とのビジネス往来によって、よりいっそう加速するであろう。

だとすれば、日本の立ち位置はより難しいものとなるであろう。すなわち、アメリカとの関係の緊密化という政治的必要性と、中国との経済関係の緊密化という経済的現実と、その二つの狭間に立たされて、両者からの圧力に接して難しい舵取りが迫られる。現時点では、そのための十分な思考的な準備がなされているとは言いがたい。日本政府においては、対米政策と対中政策が、それぞれ個別的に進められているからだ。