ポスト「安倍=トランプ時代」の外務省・国務省の復権

他方で、そのような継続性とは異なる新しい変化も見ることができる。その変化とは、対外政策の方向性ではなくて、その政策の形成過程についてである。すなわち、安倍首相、トランプ大統領とも、いずれも「ボトムアップ」で政策形成するよりも、むしろ「トップダウン」、すなわち首相官邸や大統領府を中心として、政策をつくっていく傾向が強かった。これからの、菅首相とバイデン大統領の外交は、むしろ従来の伝統的な、外務省や国務省を中心としたものに回帰するであろう。

米国国務省
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安倍政権においては、元経産省出身の今井尚哉首相補佐官や長谷川榮一補佐官が、外交政策の形成においても重要な役割を担っていた。両氏は、首相秘書官や内閣広報官という通常の役割を超えて、首相補佐官として官僚機構に指示を与える権限を有して、政策形成を主導した。しばしば指摘されるように、安倍政権においては、外務省や防衛省の役割がある程度後退して、経産省出身の上記の二人の補佐官や、杉田和博副長官と北村滋国家安全保障局長という警察庁出身の元官僚が安倍首相とは近い関係にあり、多大な影響力を有していた。

それに対して、菅義偉政権においては、外務省復権の動きが色濃く見て取れる。いわば、安倍政権以前の「通常への復帰(リターン・トゥ・ノーマルシー)」が大きな動向だ。

それは、バイデン政権においても同様である。それまでのアメリカ外交の伝統から大きく逸脱したトランプ政権期においては、国務長官や国防長官という最重要閣僚が大統領と衝突した結果、頻繁に交代させられたり、辞任したりした。

それだけではなく、国務省や国防省のいくつもの重要ポストが空席のままになっており、トランプ大統領がSNSのツイッターを利用して自らの考えを吐露するという意味で、かなりいびつなかたちの政策決定の構図が見られた。ホワイトハウスの内側で、トランプ大統領とその親しい側近との間でそれまでの慣習とは大きく異なるような大胆な政策変更がしばしば行われ、政府高官がそれに追われて対応する光景が何度となく見られた。

それに対してバイデン政権は国務省や国防省を活用する強い意欲を繰り返し示しており、アメリカ外交においても「通常への復帰」が見られるであろう。このように、新しい指導者を迎える日米両国で、「安倍=トランプ時代」のトップダウンの政策決定の方式から大きく方向転換しつつある。