「がん予防サプリ」で肺がんが増加

例外的に、定量的に害の程度がわかったサプリメントもあります。

βカロテンを豊富に含む果物や野菜をたくさん摂取する人にがんが少なく、またβカロテンに抗酸化作用があることから、がん予防に役立つのではないかと期待されていました。

βカロテンのサプリメントは、いわば抗酸化成分が含まれた「がん予防サプリ」というわけです。しかし、実際に人間が服用して効果があるかどうかは、試してみないとわかりません。

そこで、肺がんのリスクの高い喫煙者男性およそ3万人を対象に、βカロテンのサプリメントを与える群と、βカロテンが含まれていないが外見上は見分けがつかないプラセボ(偽薬)を与える群にランダムに分ける臨床試験が行われました(※2)

先入観による偏りを避けるため、参加者や医師もβカロテン群なのかプラセボ群なのかわからないようにした、二重盲検ランダム化プラセボ対照比較試験という質の高い研究です。

結果は、がん予防どころか、βカロテン群では対照群と比べて肺がんが18%増加しました。他の研究でも同様の結果が得られ、喫煙者に対する高用量βカロテンサプリメントの単独投与が有害であることは確かです。

※2 Alpha-Tocopherol, Beta Carotene Cancer Prevention Study Group, The effect of vitamin E and beta carotene on the incidence of lung cancer and other cancers in male smokers, N Engl J Med 1994 Apr 14;330(15):1029-35.

成分の多さを売りにする商品は危険

栄養補助食品
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この研究から得られる教訓はいくつもありますが、もっとも大事なのは、理論上いかにも有益な効果がありそうでも、細胞や実験動物の研究でどんなに期待が持てそうでも、実際に試してみないことには効果があるかどうかはわからない、という点です。

ヒトの体は複雑なので、βカロテンだけを摂取しても有益な効果があるとは限りません。果物や野菜だって、βカロテン以外にも多くの栄養素を含み、何が有効なのかはわかりません。おそらくは単独の栄養素ではなく複数の栄養素が複雑に影響し合っているのでしょう。

安全性についても、ふだん食べている食べ物に含まれている成分だから安全とは言えないことがわかります。

食品に含まれる量では無害でも、特定の成分が高濃度に濃縮されたサプリメントを長期間にわたって摂取するのは有害かもしれません。広告ではよく「○倍濃縮」と有効成分がたくさん含まれていることをうたっていますが、私から見るとむしろ不安になります。

通常の食品から摂取できる量であれば安全でしょうが、であればわざわざサプリメントからではなく、食品から摂取すればいいだけです。肺がんになりたくなければ、サプリメントに頼るのではなく、果物や野菜が多い健康的な食事を摂るのがいいでしょう。

βカロテンに限らず、偏食をせずバランスのよい食事を摂取していれば通常は特定の栄養素が不足することはなく、ほとんどのサプリメントは不要です。