第三に、商品ごとのブランドづくりより、コーポレート・ブランドの構築維持に注力する。メーカーのマーケティングの焦点は、流通チャネルの協力を得ながら消費者にアクセスするやり方、つまり「プッシュ型マーケティング」である。消費者も、商品購入の手がかりは、まずもってチャネルにある。パナショップで買うか、東芝ストアで買うかが、購入上の問題である。その場合、パナソニックや東芝が、わざわざ商品名をアピールする必要はない。たとえば、「パナソニックの遠心力洗濯機」「東芝のテレビ」で十分なのだ。パナソニックや東芝ばかりではない。資生堂、トヨタ、ヤマハ、コクヨで十分といえば十分なのだ。メーカーと消費者の関係を媒介するのは、「商品ブランド」ではなく、企業が商業組織を利用しながら構築したチャネル、ないしはその代名詞たる「会社名=コーポレート・ブランド」なのである。
チャネルという安定した顧客関係メディアを完成させたメーカーにとってみると、商品の名前が少々変わっても、大きい問題があるわけではない。たとえば、パナソニックとソニーの商品名の推移を調べてみると面白いことがわかる。ソニーは、トリニトロンやウォークマンといった名称がそうであるように、5年10年と、商品名を長期にわたって変えない。他方、パナソニックは、たとえば、テレビ受像機を見ても、画王→横綱→タウ→ビエラと、テレビの技術が大型からワイド、フラット、薄型と変わるごとに、その名称を変えてきた。常識的に考えれば、商品名を世の中に周知させるだけでも多額の宣伝費が必要になるので、できれば、商品名を変えずにやりたいところ。しかし、パナソニックは、そうしたコストはものともせず、「技術が変わった」というメッセージを強烈に訴求するがために、名称まで変えても問題ないと考えた。毎年毎年、マーケティングのテーマを変えてリセットしても、消費者との安定した関係はチャネルと会社名を通じて担保されていたからできたことである。他方、拠るべきチャネルを持たないソニーにとっては、消費者との接点はブランドでしかない。そこで、長期にわたって商品ブランド名を変えずにきたというふうに見ることができそうだ。もちろん、それが唯一の理由だというわけではないが。
こうしたやりかたは、コーポレート・ブランド型マーケティングとして総称できる。構造を図に示すと、図1のようになる。
新しいビジネスモデルは、従来のビジネスモデルと対照させるとすれば、プル型マーケティングとして定式化できる。それは、真逆のモデルを想定すればよい。まとめると図2のようになる。