高校・大学は原則オンライン授業
今回のロックダウンに対してもっとも周到な準備を整え、機敏に動いているのが教育機関だ。イタリアの学校は9月に始まり6月に終わるが、春のロックダウンは2月半ばの日曜日の夜に突然「明日から学校は閉鎖されます」と告げられ、なんの準備もできないままに2週間ほど「教育」が完全に停止した。
3月からはオンライン授業が始まったが、トラブルが相次いだ。イタリアのブロードバンドの普及率は北部で85%、南部では77%ほどで、家庭にオンライン授業に対応できるだけのネット環境がない生徒も多いためだ。加えて教師側も手探りで進めるしかなく、結果として多くの未修科目を残してしまった。
ミラノ近郊の高校のある教師が言う。「イタリア教育省の決定により、学校を開けるのは幼稚園と小学区のみ。高校と大学は公共交通を使い居住区域外の学校に通うケースが多いため、オンライン授業とされました」。
中学校では初めて習う科目が多い1年生のみ対面授業を実施。またディスレクシア(読み書き障害)の生徒に対しては、中高ともに対面授業が行われれる。「オンライン授業は学校からの配信で行われ、教師は通常通り学校に出勤して仕事をする形です」
低所得家庭には回線整備の補助金も
イタリア政府もオンライン授業に対応するためコンピュータの購入やブロードバンドへの加入を促すため低所得の家庭を対象に最大500ユーロの補助金を出した。すでにネット環境があっても30Mbps以下の通信速度であれば補助金を利用できる。ちなみに、拙宅はADSL回線を使用しているが、接続速度は35Mbps程度。これが平均的なイタリアのネット環境である。
しかし、これはあくまで遠隔学習は可能だと確認したにすぎない。ミラノのアレッサンドロ・ヴォルタ高校のドメニコ・スキラーチェ校長は各メディアに対し、「可能であれば午前の2時間だけでも学生を学校に戻してあげたい。学校は彼らの生活であり学問を学ぶだけの場所ではないからです」と、レストランや商店は時間制限を設けて営業を許可しているのに、政府の学校への言及がないことに異を唱えている。
スキラーチェ校長は2月の学校閉鎖の際、イタリアの高校生が必修で学ぶアレッサンドロ・マンゾーニの小説『いいなづけ』(黒死病流行下の17世紀ミラノが舞台)を用いて、当時の混乱を繰り返してはならないと説いた人物だ。他の欧州連合(EU)各国では学校の閉鎖は実施されておらず、ただでさえイタリアは、2013年の国際成人力調査において「読解力」と「数的思考力」の2分野で最下位にランクされるなど、教育レベルの低下が指摘されている。春の第1波の時のように教育を止めたくない、という思いがあるのだろう。