『プリティウーマン』が大好きだった

イーオン社長の三宅義和氏
撮影=原貴彦
イーオン社長の三宅義和氏

【三宅】なにか自主的な勉強もされていたんですか?

【杉山】やはり英語に触れておくことが重要だと思って、好きな英語の歌の歌詞を聴いて覚えたり、歌詞の意味を調べて書いたり、映画のDVDなら字幕を消して観たりと、いろいろやっていました。

【三宅】好きな映画を観るというのはいいですよね。

【杉山】『プリティウーマン』が大好きだったので何回も観ましたね。すると段々、そこで使われているフレーズが頭に残るようになるので、それを実際の会話で使ってみるとか。そういう意味では理屈よりも場数で鍛えていった感じです。海外に行くときも表現集などを持っていくわけでもなく、すべてがぶっつけ本番。もちろん身振り手振りを交えながらですけれども、ときに痛い思いをしながら徐々に「こんな感じかな」「あ、こうじゃないんだ」ということを繰り返しながら英語力を身につけました。

【三宅】日本人はどうしても「間違えたらいけない」という意識が強すぎますよね。

【杉山】それはありますよね。でもネイティブではないわけですから、間違って当然くらいの感覚でいいはずです。私はむしろ間違ってもいいから、使いつづけることが大事だという意識でいました。

【三宅】本当にそうですね。しかも自分の英語に自信がないとなおさら伝わりづらい。小さな声でボソボソ話しても、伝わるものも伝わりません。

【杉山】それは意識していました。ボソボソしゃべっても聞いてくれないので、できるだけ堂々と話すようにしていました。

プロスポーツの世界で英語力は成果に直結する

【三宅】プロになられてみて、実際に英語は重要だと感じましたか?

【杉山】感じましたね。たとえば、ダブルスの相手とのコミュニケーションは英語です。前回、私はダブルスの相手には相性や信頼関係を求めていたという話をしましたけど、それはお互い英語ができるからこそ、築くことができることです。

あとプロになって痛感したことなんですけれど、試合の前後に受ける記者会見やインタビューって選手にとってはかなり負担なんですね。とくに試合前は試合のことに集中したいのに、英語で取材を受けるとなると「ちゃんと答えられるかな」とか「どんなことを聞かれるかな」とかいろいろ考えてしまうんです。でも英語力を磨いて普通の感覚で受け答えができるようになれば、その負担が軽減できるわけですから、そのメリットは相当大きいだろうと感じていました。

【三宅】通訳を介する人もいますよね。

【杉山】先輩選手でもそういう方はいらっしゃいましたけど、私としては「自分の言葉で発信していきたい」という気持ちがすごくあったんです。最初の頃は海外プレスの方の質問が聞き取れなくて、“Say again please.”とか言っていると、「もういいよ」みたいな感じに露骨に冷たい態度を取られて落ち込んだこともありました。

【三宅】それは確かに凹みますね。あと、情報戦にも英語が欠かせないという話を聞きました。

【杉山】そうなんです。ルールチェンジのような本当に大事なことは主催者側から逐一情報が共有されて、細かくかみ砕いて説明してくれたりしますけど、たとえば雨が降って何時からどのコートで練習できるのかみたいな現場で発生する情報って、選手間やコーチ間で伝言ゲームみたいに内々で回るんです。選手としてはそういう生の情報が意外と重要なので、日頃から英語でいろんな選手、関係者と英語でコミュニケーションをとっておくことは大切だなと思いました。