鍵となるのはATMの設置場所
銀行のビジネスモデルの基本は、金利を支払って預金者から預金を集め、そのお金を原資に、金利を徴収しながら個人や企業に貸し付けを行うことだ。
ところが、預金集めにも貸し付けにもコストがかかる。預金集めには営業マンの人件費や広告宣伝費はもちろん、集めた預金を安全に保管するためのコストは不可欠だ。貸し付けは、相手の支払い能力や担保の価値などから貸し付けのよし悪しを判断する与信業務も発生する。与信業務をゼロから立ち上げるには莫大なコストがかかるし、いざ貸し付けても貸し倒れのリスクが生じる。万が一の場合は、預金者には預金を払い戻さなければならないから、銀行側が自己資金を持ち出すことになる。
一方、セブン銀行は決済専業銀行、わかりやすく言うとATM(現金自動預払機)ネットワークを活用した“現金配達業”だ。主に国内約1万2000のセブン-イレブン店内とイトーヨーカ堂、ショッピングセンター等々、消費者が頻繁に立ち寄る小売り・サービス施設内にATMを設置し、提携金融機関や利用者から利用手数料(コミッション)を得ている。金融機関と利用者の間に立ち、振り込みや引き出しなどで現金を配達しているイメージだ。その配達料金=利用手数料収入がセブン銀行の収益源で、他行カードの利用客が手数料無料で現金を出し入れしても、他行はセブン銀行に銀行間手数料を支払う。
セブン銀行では、法人向けの融資を行わないため、与信業務に対するコストが不要なだけでなく、貸し付けを行っていないため、貸し倒れリスクも発生しない。また、イトーヨーカ堂の店内にある一部店舗を除き、基本的にATMのみの無人営業店だ。したがって、店舗コストのみならず窓口業務に関わる人件費、冷暖房費、警備費用すらかからない。つまり、イニシャルコスト(初期投資)とランニングコストを極力抑えた経営を実現している。
ただし、セブン銀行のビジネスモデルの場合、ATMの利用者が少なければ利用手数料収入を得ることはできない。その鍵となるのがATMの設置場所だ。
従来の銀行には、お金をおろす、預けるといった目的来店客のみが足を運んでいるわけだが、セブン銀行の場合、コンビニエンスストアやショッピングセンター等の小売り・サービス施設内にATMを設置しているため、あくまでも買い物や飲食、映画観賞などが主な目的であり、ATM利用は従といっていい。つまり、非目的来店客(買い物などの“ついでに”利用する客)を取り込みやすい立地にATMを設置することで、利用者数を増やし、手数料収入を確保しているわけだ。また同時に小売り側もお金をおろす、預けるといった小売り側にとっての非目的来店客を取り込める。例えばコンビニに設置されたATMで、お金をおろす“ついでに”弁当やドリンク、雑誌類などの買い物をしてもらえるチャンスが増えているのだ。
決済が便利になれば、ATMはまさしく「サイフ代わり」。すぐ引き出せる「サイフ」が手近にあるから“思わずお金を使ってしまう”機会が増えるということだろう。
銀行側の都合ではなく、あくまでも消費者が「ここにあればいいな」と思う場所にATMを設置する。それがセブン&アイ・ホールディングスのグループ全体の客数、売り上げ、収益アップに繋がるシナジー効果を生むという、なかなかしたたかな経営戦略である。