見るべきは「株価」ではなく「顧客満足」
この時期、ベゾスは会社の体質改善などを行うことでごくわずかの利益を捻出し、「利益の出せる会社」であることを証明する一方で、『ハリー・ポッター』シリーズの最新作を大幅に値引きしたうえで配送するという一大キャンペーンを手がけます。1冊当たり数ドルの損失覚悟で実に25万冊を販売したべゾスは、「話題作りとしても損失が大きすぎる」と揶揄するウォール街の人々に「顧客にとっていいことは株主にとって悪いことという二者択一でしか考えられないのは素人だ」と豪語しました。
事実、アマゾンへの顧客の評価は急上昇し、さらに多くの顧客を獲得することに成功したのです。株価の下落に落ち込む社員には「自分と株価は別物だ。株価が30%下がったからといって、30%頭が悪くなったと感じなくていいだろうと檄を飛ばしています。
見るべきは「株価」などではなく、「顧客満足」であるという信念こそがベゾスに逆風を乗り切る力を与えたのです。企業を評価するのは「ウォール街」ではなく「ユーザー」であるという信念がベゾスの支えでした。
「アップルへの恐怖」から生まれたキンドル
3つ目の危機は肝心の「ユーザーから見放されるのでは」という不安でした。
ベゾスが最初の電子書籍リーダー「キンドル」を発売したのは2007年のことですが、実は、そこにあったのは恐れでした。
アップルの創業者スティーブ・ジョブズがiPodを発売してアマゾンの音楽事業に多大な影響を与えたことによる、「もしアップルが電子書籍に進出したら中核事業が壊滅的な打撃を受ける」という恐れです。
ベゾスは本が大好きでしたが、いつまでも紙に印刷された本にこだわっていてはアップルなどに食われることになりかねません。「他人に食われるくらいなら、自分で自分を食った方がマシだ」と考えたべゾスは2004年から電子書籍リーダーの開発に着手、アップルに先んじて「デジタル読書の時代」を切り開こうとしたのです。
こうした決断と、クラウドサービスの「AWS」への参入などもあり、以後、アマゾンは大きく成長、今やアップルやマイクロソフト、グーグルなどと並んで時価総額1兆ドルを優に超える巨大企業となったのです。