「イチゴ農家の息子が国のリーダーへ」というあざといストーリー

日本の政界は二世、三世議員が多く、安倍前首相は、「庶民」からはかけ離れた存在で、「どうせ、われわれの気持ちなどわかるまい」という気持ちを抱いた国民も少なくなった。

臨時国会召集を前に記者団の質問に答える菅義偉首相=2020年10月26日、首相官邸(写真=毎日新聞社/アフロ)
臨時国会召集を前に記者団の質問に答える菅義偉首相=2020年10月26日、首相官邸(写真=毎日新聞社/アフロ)

菅首相があえて、このイチゴ農家ストーリーを繰り返し、「私はあなた方の仲間だ」と言うのは、冒頭に紹介したトランプも使ったプロパガンダの一つの手法「⑤一般人」にあたる。「あなたの気持ちはわかる」。この姿勢が、コロナ禍でわれわれが感じた「そうじゃない」「それじゃない」というもやもや感を「そうそう!」「それそれ!」に変えていくのだ。

日本ならず、海外でも、こうした立身出世物語は昔から、万民に好まれてきた。日本電産の永守重信会長、ソフトバンクの孫正義社長、海外でもスターバックスのハワード・シュルツ氏、グーグルのサンダー・ピチャイCEOなども、そうしたストーリーで共感を呼ぶ。

海外メディアもさっそくこの点を、好感を持って伝えている。

例えば、米ウェブメディアVoxでは、「日本の首相の貧乏人から成功者へのストーリー」というタイトルの記事で、「農家の息子から国のリーダーへ」「菅は世間が思っているよりも、親しみやすく、気取らず、チャーミングだ」「夢を実現した庶民」と伝えている。

こうしたストーリーはディテールが命だが、「イチゴ農家」「段ボール工場」「一日300軒を訪ねた」などのエピソードが、鮮やかにその庶民性を浮かび上がらせる仕掛けになっている。抜け目なく、あざとい。

③格好をつけない

3つ目の特徴が、気負わず、「いい格好をしようとしない」ということだ。

ダイナミックなコミュニケーションスタイルで知られるトヨタ自動車の豊田章男社長は、社内報の中で、「社長のようにすごいプレゼンをする秘訣は何か」と問われ、「人前に出ていくと「恥ずかしい」とか、やっぱり人間だから「いいカッコしたい」っていうのが出るんだよ。それさえ捨てりゃ楽だよ(笑)。「イイカッコしようという気持ちさえなければ、ものすごく楽」と答えている。

コミュニケーション上達の極意は、「自分を格好よく見せようとしない」ことだ。自分をよく見せようと、格好つけることほど、格好の悪いものはない。ありのままに、自然体。これが、リーダーとして共感を得るポイントだ。「彼(菅首相)の良さははげるメッキがない」ということ。これはある側近議員の言葉だ。