「令和おじさん」菅首相のスピーチ内容が国民の頭に残るワケ
早口で、原稿を読み上げるスタイルで、パフォーマンスは皆無だが、手堅いコミュ力も垣間見えた。それは、①抽象より具体、②共感ストーリー、③格好をつけない、という3点に代表される。
①抽象より具体
筆者は、これまで1000人を超える日本の大企業や社長や役員の「家庭教師」として、その話し方の指導をさせていただいてきた。そのノウハウやメソッドを、近く出版される『世界最高の話し方』(東洋経済新報社)にまとめたが、日本のリーダーに多い話し方の特徴として、とにかく「抽象ワード」「根性ワード」「ポエム」が多いことが挙げられる。
例えば、「イノベーション」「革新」「実行力」「成長加速」「迅速な意思決定」「SDGs」などといった何のイメージもわかない言葉を乱発する。今なら、「ニューノーマル」「ポストコロナ」などといった言葉が頻出するだろう。
しかし、今回の演説で印象に残ったのは、そういった抽象語より、「2050年カーボンニュートラル」「行政申請における押印の全面廃止」「不妊治療の保険適用」「携帯料金値下げ」など、具体的な数値や目標を伴った施策の数々だ。言い回しは手短で、回りくどい官僚言葉はない。ふわりとした理念よりも、踏み込んだ施策そのものを際立たせる手法だ。
美辞麗句の抽象的イデオロギーより個々具体的なイシュー・ドリブン(=に突き動かされた)の、こうした話し方は、相手の脳に、「絵」を埋め込みやすく、理解を得やすい。
②共感ストーリー
2つ目の特徴は彼個人のストーリーだ。その鉄板ストーリーは、「私は雪深い秋田の農家に生まれ、地縁、血縁のない横浜で、まさにゼロからのスタートで、政治の世界に飛び込みました」というもの。これを繰り返すのは、まさに、ここが人々の共感を誘うツボであることを彼自身が熟知しているのだろう。
新著でも指摘したが、これからの時代のリーダーに欠かせないのが「共感力」だ。コロナ禍で支持率を上げたニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相など、人々の不安や苦しみに寄り添い、共に分かち合おうとする指導者だった。
求められる企業リーダー像も、トップダウンで、一方的に指示をする「教官」型から、横にいて、背中を押し励ます「共感」型へと変化している。コンプライアンスなどの理由から、これまでの強権型が受け入れられにくくなり、情報がフラットに流通するソーシャル時代には頭ごなしで一方的なコミュニケーションより、対話を通じて、社員自らの変革を促すスタイルが効果的である、という考え方からだ。