多様性に不寛容なトランプとは相容れない

しかし、多様性を受け入れるミレニアル世代も時に分断を生む。多様性に不寛容な人々との衝突だ。トランプはその間隙を縫って、大統領の座を手にしたと考えられる。

トランプは多様性を否定する象徴のような人物だ。2016年の大統領選挙中には「多額の医療コストや混乱を負担できないので、トランスジェンダーの従軍は認められない」とツイッター上で発信した。オバマ政権では1972年教育改正法第9編(タイトルⅨ)における性差別に関して「トランスジェンダーを含む性自認に基づく性別に対する差別にも法が及ぶ」とガイドラインをつくったが、トランプはその撤廃に動いていたことが報じられ、大きな反発を受けた。

2019年1月からは道徳的・宗教的信念を理由にした医療サービスの拒否を医療・保険事業者に認めることで、LGBTQ+患者への差別を助長したとも言われた。「公民権法の規定は性的マイノリティに及ばない」という主張も続けてきた。

このほか、2016年大統領選中にはメキシコからの移民を「麻薬や犯罪を持ち込む強姦犯だ」と罵っていたことはご存じだろう。メキシコとの国境に壁を建設して、不法移民を排除するとも主張してきた。

「オバマのアメリカ」で育ったミレニアル世代には到底受け入れられない姿勢だ。当然、多様性を求める民主党支持者も受け入れない。トランプの差別的な言動が逆風となるのは当然と思われた。

実際、大統領選挙の一般投票ではオバマが当選した2008年から2012年、2016年と民主党は“3連勝”を果たしている。だが、トランプはラストベルトの労働者の心を掴むことで民主党支持の青色州を“赤く”塗り替え、共和党の地盤は着実にものにするという戦略で選挙人獲得数ではヒラリーを大きく上回ることに成功したのである。

オバマ政権以降、多様性が浸透するなかで、その多様性の容認によって移民や外国に仕事を奪われた人たちの支持を獲得したことがトランプの勝利に繋がったと言える。

ヒラリーは時代を読む目と戦略に欠けていた。前出のピュー研究所によれば、ミレニアル世代の人口は7000万人を超え、アメリカの総人口の22%を占める。アメリカ国勢調査局が定義する1982~2000年生まれをミレニアル世代とすれば、人口比率は26%にも達する。だが、当時の世論調査を見ると、ミレニアル世代はヒラリーをオバマの後継者として受け入れなかったことがわかる。

誇りを持って走る
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政治に対する期待をあまりもっていない

ミレニアル世代は成人と前後して2001年の「9.11」テロを経験している。2007年にはサブプライムショックに伴う不動産バブルの崩壊を目の当たりにし、2008年にはリーマンショックが直撃した。他の世代に比べて、若年期に失業した経験が高いとされている。

テロの脅威と金融恐慌を若くして経験したため、ミレニアル世代はそもそもアメリカ経済の先行きには悲観的で将来に対する不安を抱えやすい世代とも言える。そのため、政治に対する期待は薄いとされる。アメリカの世論調査機関グリーンバーグ・クィンラン・ロズナー(GQR)の今年の報告書によると、35歳未満の有権者の過半数が今回の大統領選挙での投票について「熱心でない」と報告されている。政治に対する不信感を鬱屈させた世代なのだ。

実際、2016年大統領選挙でのミレニアル世代の投票率は51%で、一つ上のX世代(1965~1980年生まれ)の63%、さらに上のベビーブーム世代(1946~1964年生まれ)の69%、沈黙世代(1928~1945年生まれ/騒々しいベビーブーム世代との対比でこう呼ばれた)の70%と比較すると大幅に低い。だが、民主党が勝つためにはここの票が必要になる。歳を重ねるごとに共和党支持者が多くなるからだ。2008年オバマが誕生したのは、ミレニアル世代の票差でライバルを圧倒したからだった。