区の名前をめぐって東京と大阪のプライドが激突
区の名前では東京と大阪で互いのプライドをかけた駆け引きがあった。2020年の2月、4特別区のうち2特別区の名称が「北区」と「中央区」となることについて、東京都の北区と中央区が「混同される恐れがある」として、大阪府市に名称の再考を求めた。
確かに大阪都構想が実現すると、東京、大阪に「北区」「中央区」という自治体が存在する事態となる。そのため、大阪府市が東京の北区・中央区に照会したとき、東京都の北区と中央区は再考を求める文書を送付した。理由は、北区は「基礎自治体としての北区は東京だけにしかない」であり、中央区は「70年間、中央区としてやってきて、銀座などのブランドが築かれてきた。避けてほしい」というものだった。
法律的には、新しい市ができる場合の名称は、既存の市と同一または類似しないよう「十分配慮すること」という1970年の自治省の通知があるが、強制力はない。実際、同じ名称を規制する法律はない。
個人的には日本中に銀座もあれば、富士もあるので、かぶってもそれほど問題はないと思うが、それくらい区の名前というのは当事者からすれば大きな問題ということがわかる事例だ。
なぜ「構想」ではなく「抗争」が起きるのか
さて、政令市に住んだことがある人にはわかると思うが、政令市には都道府県とほぼ同じ権限があり、市が単独でいろいろな事業を進めることができる。そういう意味ではかなり自治権が高い制度だ。
もっとも、政令市の力が強い分、「ふしあわせ」のように、都道府県とは隙間風が生じやすい。政令市と都道府県が共同で作業をするということも意外と少なくない。私も多くの地方自治体の方と知り合いになり、地方公務員の優秀さはよくわかっているが、どんなに優秀であっても、政令市の職員は政令市を中心に、都道府県の職員は政令市以外の市町村を中心に考える傾向がある。そういう意味で、統合すれば、ふしあわせが解決しやすいのは一理ある。実際、最近、大阪府や大阪市の職員と会っても大阪都が実現する前提で、両者の対立はあまりみられなくなった。
今のところ、成長戦略の一本化、大阪府と大阪市の観光部局の統合による大阪観光局の創設、信用保証協会や公設試験研究機関の統合、万博とIRの誘致、地下鉄などの広域交通網の整備促進などが府市一体となって取り組まれている。大阪都構想実現時には、広域行政を大阪府、住民に近いサービスを特別区が行うことで二重行政をなくし、昔のような「ふしあわせ」とならないようにしたいというのが今回の構想の基本理念である(図表3)。
このようにみると大阪都構想はメリットが多そうだが、反対意見も根強い。例えば、府立体育館と市立体育館が両方ある状態に対して、反維新はきめ細かい行政サービスがあるという言い方をする。非効率ときめ細かいサービスは紙一重なのだ。大阪府民というよりも大阪市民であることを誇りに思う人々も多い。大阪都「構想」をめぐって、維新と反維新で大阪都「抗争」となる。