北太平洋全体で資源量が減少

日本や中国、台湾など、8カ国・地域による北太平洋漁業委員会(NPFC)の科学委員会も、サンマの資源量の減少を指摘している。NPFCは、サンマの持続可能な利用に向けて漁獲量に上限を設けることを決めた。北太平洋全体で年間55.6万トンという漁獲枠は、過去の漁獲実績と比べてもかなりゆるい上限値だが、2020年から導入することで一致した。

水産庁と水産研究・教育機構は報告書「国際漁業資源の現況」(2019年)で、北太平洋のサンマについて、資源水準を「低位」、資源動向は「減少」と評価している。ただし、サンマはもともと、10~20年周期で漁獲量の変動が繰り返されてきた魚種でもある。2015年以降、日本近海のサンマ漁場で不漁が続いた具体的な環境要因として、東京大学大気海洋研究所の伊藤進一教授は「親潮が弱く、サンマが南下しにくい」「北海道沖に暖水塊が停滞しやすくなり、サンマの南下を妨げた」という2つの要因を挙げる。サンマは水温の低い海域を好んで回遊する性質があり、分布密度が高く、漁場が形成されやすい水温域は10~15℃とされている。

サンマの資源量の増減には、エルニーニョ現象のような数年規模の変動のほか、10年から数十年規模の海洋環境の変動も関わっていると指摘されている。では、地球温暖化による気候の変化は、長期的に見て日本近海のサンマ資源にどんな影響を与えるのだろうか。

魚市場
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エサとなる動物プランクトンが激減

伊藤教授らは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が示した温暖化シナリオにもとづいて、海水温の上昇と未来のサンマの状況についてコンピュータシミュレーションをおこなった。それによると、このまま温暖化が進んだ場合、私たちがサンマに対して描いてきたイメージを崩すような変化が起こる可能性がある。

サンマの生息海域では、冬に表層の海水が冷やされ、重くなって沈む。それにともなって、深い場所の海水は逆に、表層へと押し上げられる。深い場所の海水はリンや窒素などの栄養塩に富んでおり、表層へ送られることで植物プランクトンを育てる役割を担っている。

ところが、温暖化が進んで海水が十分に冷やされなくなると、浅い場所と深い場所との循環(鉛直混合)が弱まり、表層へ供給される栄養塩が少なくなる。栄養塩の供給が減ることで、その海域における植物プランクトンの発生量が減り、植物プランクトンを食べる動物プランクトンの減少を招く。これは、サンマのエサとなる動物プランクトンの減少につながる。

伊藤教授らは、温室効果ガスの排出量が増加し続けるシナリオをもとに計算をおこなった。サンマがエサとして利用する動物プランクトンのなかでも、特に重要なネオカラヌス属のカイアシ類3種(①Neocalanus cristatus、②Neocalanus flemingeri、③Neocalanus plumchrus)とツノナシオキアミ(Euphausia pacifica)について、温暖化による海水温上昇の影響を調べた。その結果、これらの動物プランクトンは2050年の時点で、季節によっては北海道沖で2000年のレベルに比べて半分ほど、常磐じょうばん沖では同じく4分の1ほどに減ることが示された。