安くておいしい秋の味覚、サンマに異変が起きている。資源量が減ったことに加えて、日本近海で海水温が上昇した影響も加わって、記録的不漁に。高いものでは1000円以上と価格が高騰し、庶民には手が出しにくい代物となっている。科学ジャーナリストの山本智之さんは「温暖化が進む将来は、サンマの旬が秋から冬へずれ込むなど、日本の食文化は大きく様変わりしていくだろう」と言う――。

※本稿は、山本智之『温暖化で日本の海に何が起こるのか 水面下で変わりゆく海の生態系』(講談社ブルーバックス)の一部を再編集したものです。

焼き魚
写真=iStock.com/marucyan
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目黒のさんま祭りもピンチ

サンマは長年、安くておいしい「庶民の魚」として親しまれてきた。流通段階の鮮度管理が行き届いているおかげで、塩焼きだけでなく、刺身や寿司ダネとしても広く親しまれている。

しかし、近年は不漁の年が目立ち、価格も高くなってきた。日本のサンマの水揚げ量は20万~30万トン前後で推移してきたが、2015年以降は10万トン前後に下落しており、メーカー各社によるサンマ缶詰の値上げにもつながった。不漁のおもな原因として、資源量そのものが減少したことに加え、日本近海の海水温が上昇してサンマの回遊量が減ったことが指摘されている。中国や台湾が公海域でのサンマ漁を活発化させたことも問題視され、漁業関係者のあいだで危機感が高まった。

水揚量の推移(1981年~2019年)
出典:全国さんま棒受網漁業協同組合

こうした状況を受けて、水産庁は2019年、それまで8~12月に限っていた大型船(総トン数10トン以上)によるサンマ漁の操業期間を撤廃し、年間を通して漁獲できるよう規制を緩和した。同年秋には有名な「目黒のさんま祭り」で、炭火焼きにするための生サンマを例年のように確保できず、冷凍物でしのぐというニュースも流れた(今年は新型コロナウイルスの影響で中止)。全国さんま棒受網漁業協同組合の集計によると、2019年の全国のサンマの水揚げ量は前年より66%減少し、半世紀ぶりに過去最低を更新した。今年はそれをさらに下回ると予測されている。