サーバー機のわずかな隙間に埋もれて亡くなった男性
この部屋に住んでいた40代の男性は、東北地方から上京し、ウェブ関係の専門学校に進学。卒業後、都内のウェブ制作会社に就職したが、一度も無断欠勤をしたことはなかったという。GWが明けた後に、なかなか出勤しないことを心配した同僚がマンションを訪ねると、そこにはすでに事切れた彼の姿があったのだという。死因は急性心筋梗塞だった。
この部屋の特殊清掃は難航を極めた。サーバー機に阻まれ、奥に進むことさえできなかったからだ。その隙間には、インスタントラーメンの食べかすや、空のコンビニ弁当、飲みかけのコーヒー牛乳などが溢れ返って、いくつもの層を作っており、蠅が集まっていた。10年以上原状回復工事に携わっている塩田でさえも、たじろぐほどの異臭であった。
男性は欠勤することなく会社に通勤しつつも、何十年にもわたって不衛生な環境で、不摂生な食生活を送っていたと塩田は、すぐに察知した。
黒い染みの様子から、男性はサーバー機のわずかな隙間に埋もれるようにして亡くなっていたという。
「しょこたん」(中川翔子さん)や水樹奈々さんのファンだったようで、初回限定版のCD・DVDや写真集、漫画本などが見つかり、そのほとんどが未開封で、アニメのポスターと一緒に棚に積まれていた。
団塊ジュニアやゆとり世代は社会的孤立に陥りやすい
数日間かけて、ようやく無数に張り巡らされている配線とサーバー機を外したが、室温はゆうに40度を超えており、一歩間違えば火災の危険があったという。
「急性心筋梗塞による孤独死は、働き盛りの30代、40代の男性に圧倒的に多いんです。その生活ぶりを見ていると、仕事には真面目で実直な人ばかりなんです。その分、趣味などで自分の世界にこもりがちで、世間との軋轢も多くて、普通の人よりもストレスを抱えやすいのだと思います。若年者の孤独死について感じるのは、生前、彼らが社会において孤立していたということです。慢性的な孤立状態が寿命を縮めてしまうというのは、特殊清掃現場に携わっていて毎回ひしひしと感じることです」
塩田は、若年者の孤独死について、こう警鐘を鳴らす。
特に、団塊ジュニア、ゆとり世代は、社会的孤立に陥りやすく、孤独死しても長期間遺体が見つからないという痛ましいケースが多い。孤独死はもはや高齢者に限った問題ではない。その日本社会の暗部と日々向き合っているのが、塩田のような特殊清掃人だ。