仕事は順調、通帳の預金残高は1000万円
その周囲は、異様な数のブランド物の洋服や、バッグ、キャリーバッグなどで固められていて、いわゆるモノ屋敷だった。女性は、買い物依存に陥っていたのだろうと、塩田はピンときた。
女性の仕事の業績は順調だったらしく、通帳の預金残高も1000万円近くあり、金銭的には不自由した様子はなかった。しかし、仕事以外の人とのつながりを示すものは何も見つからなかった。男性関係を示すものはおろか、友人や親族など、人間関係を完全に遮断していたようだ。
「この女性は、いわば仕事と結婚したようなもので、まさに仕事に生きていた女性だったのでしょう。化粧品も全くなかったですし、社会との接点は、本当に仕事だけ。もちろん、このような状態の部屋に人を招き入れることはなかったはずです。
ただ、毎日の仕事だけが彼女の生きがいだったのかもしれません。しかし、そんな仕事だけの人生が、逆に彼女を孤立させて、心身をむしばんでいったのだと思いました」
冷蔵庫の中は空っぽで、大量のカップラーメンが段ボールに入っており、一部は残り汁がそのままに、机の上に放置されていた。女性は、明らかに栄養面では偏り、不摂生な食生活を送っており、孤独死へとジワジワと追い打ちをかけていたことが見てとれる。
マンションの配管を伝って体液が流れ出す
女性は、いわゆるワーカホリックで仕事に邁進し、身の回りのことに手がつかなくなっていたようだ。お風呂場で亡くなったらしく、強烈な臭いを放つ浴室は、水が抜けていて空っぽだった。
ちなみに浴槽で亡くなった場合は、警察が水の張っている風呂の中から、遺体を引き上げる際に、栓を抜いてしまうことが多い。つまり、腐敗した体液が、排水溝にそのまま流れてしまうというわけだ。これが、のちに大問題を引き起こす。
マンションの1階ならまだしも、上層階の浴槽で孤独死が起こった場合、下層階まで排水管を伝ってその臭いが下の階に漏れ出てしまうのだ。下手をすると、マンション1棟を巻き込むほどの、大騒動が勃発する。
人の腐敗した体液は、えもいわれぬ強烈な悪臭で、それを取るには高度な専門知識が必要になる。統計上の死因で、交通事故よりも多いヒートショック死だが、現実問題として、孤独死は近隣住民にも、多大なダメージを被らせてしまうことが多いのである。この女性のようなヒートショック死は、実は孤独死の類型として、決して珍しいものではない。冬場は、寒暖差による突然死が多く発生するからだ。
死因は、急性心筋梗塞──。しかし、それ以前の偏った食生活や、不衛生な部屋の状態が女性の寿命を縮めてしまったのだろう。しかし、孤独死現場に日々取材で向き合う私自身も含めて、仕事に没頭するあまり、このような状態へと落ち込んでしまうことは、ありえることなのだ。