真面目な人がセルフネグレクトに陥るという現実

メタルラックに掛かっていた布をめくると突然、小さな仏壇が出てきた。その奥には、二つの位牌と写真数枚が置かれていた。それは、男性の母親と妹の写真らしかった。写真をめくると、原形が判別できないほどに潰れた車の写真があった。男性は若い頃に、交通事故で母と妹を同時に亡くしていたことがわかった。肉親を同時に2人も失ったことは、男性にとってとてつもない大きな悲しみだったのではないかと、塩田は声を詰まらせた。

「現役世代の特殊清掃の現場で思うのは、なぜ普通の人よりも真面目にやってきた人が、若くして亡くなって、何日も発見されないんだろうということです。世の中には、仕事もそこそこにこなして、毎日楽しく、楽に生きている人もたくさんいるはず。

それなのに、仕事に一生懸命打ち込んできた故人様のような方が、セルフネグレクトに陥ってしまい、孤独死するケースが多い。切ないですよね。特殊清掃を仕事にしている僕が言うのもおかしいと思われるでしょうが、孤独死は減ったほうがいいと思うんです」

塩田は全ての作業が終わると、「いつか生まれ変わったら、亡くなったお母さん、妹さんと故人様が、笑顔で再会できますように」と心の中で祈り、涙ながらに深く手を合わせた。

生涯未婚率の増加などによって、単身世帯は年々増加の一途をたどっている。2015年には、三世帯に一世帯が単身世帯になった。そして、この数は今後も増え続けていくとみられる。単身世帯が右肩上がりで増え続ける現在、孤独死は誰もが当事者となりえる。特に、地域の見守りなどが充実している高齢者と違って、現役世代のセルフネグレクトや社会的孤立は、完全に見過ごされているといっていい。特殊清掃の現場は、それを私たちに伝えている。

孤独死はふとしたきっかけで訪れる

見てきたように、現役世代の孤独死の特徴として、彼らは、生前、長期間家にひきこもっていたというケースばかりではない。現役で働いていたり、少なくとも、数年前までは勤めていた形跡があったり、かつては社会とかかわりを持っていた形跡を感じることが多い。

そして、ふとしたきっかけで、つまずき、孤独死してしまうのだ。

2019年2月、塩田は、横浜市にある2DKの分譲マンションの一室に足を踏み入れようとしていた。200匹はくだらない数の蠅が、塩田の顔面に容赦なく、突進してくる。

隣のマンションの住民の子供が、毎日同じ部屋の電気がついていることを不審に思い、親に相談。管理会社に通報があり、女性の孤独死が発覚した。

この部屋で亡くなっていたのは、40代の女性で、死後1カ月が経過していた。女性は、自営業のノマドワーカーで、在宅でネット販売の仕事をしていた。居間には、仕事用のネット販売の顧客リストや郵送用の販促物などが山のように積んであった。