仕事のささいな失敗が原因で、パニック発作を伴う「消耗性うつ病」に陥る人がいる。精神科医の遠山高史氏は、「安心安全を過度に追求する社会に原因がある」という――。

※本稿は、遠山高史『シン・サラリーマンの心療内科 心が折れた人はどう立ち直るか「コロナうつ」と闘う精神科医の現場報告』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

飛行機の座席
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ささいな事故がきっかけで出社不能に

定年で公立病院を辞め、3年前に都心から30分ほどのJR駅近くに心療医院を開いた。毎日驚くほどたくさんの悩める人が訪ねてくる。開院してから数カ月で、医師も看護師も足りなくなった。

心の悩みは人それぞれだが、最近WHOが、世界でうつ病を病む人が3億2000万人を超え、10年前より18%増えたと発表した。アジアの途上国でもうつ病が急増しているそうだ。ご多分に漏れず、我が医院もうつ病が多い。

50歳ぐらいの暗い表情をした、航空機の整備会社のベテラン技術者がやって来た。

彼は自分が整備した飛行機に乗れないことを非常に恥じていた。乗ろうとするとめまいや動悸、不安にかられるパニック発作が起きるようになっていたのだ。かかる有り様は乗る人にはなはだ失礼な話だから、誰にも言えない。死んでお詫びするしかない、と漏らす。

この数カ月で5キロも痩せたが、それでも最近まで、何とか出勤していた。ところが、2日前に、ついに朝からめまいや動悸、不安の発作が起きるようになり、出社できなくなった。

少し以前に飛行場の中で運搬用の車を標識にぶつけてしまったことが、きっかけのようだ。破損はわずかで修理もいらない程度のものだったが、気分は激しく落ち込んだ。

日頃は、飛行場内での運転を指導する立場であったが、あろうことか自分が事故ってしまったのだ。これが、ひどい自信の喪失につながった。自分が整備した飛行機に乗れなくなっていたことがばれるのではないかと不安にかられた。

なぜ、些細な事故で落ち込むのか。もともと滅入りやすいタイプだから。そうした説明もあながち間違いではないが、かなり前から彼の精神は疲弊し切っていた。