学校は大した事実確認もせず…

こんな例もある。少し知的能力が低く、特別支援学級にいる6年生の男の子の親が突然、学校から呼び出された。

女の子につきまとい猥褻行為をしようとしたので、今後は電車での登下校時に親が付き添うか、あるいはルートを変えるようにと言われたのである。

彼が帰りの電車に乗りこんだ時、電車はガラ空きで、座席の端に同じくらいの年ごろの女の子が座っていた。彼はその子の隣に座ったのである。空席だらけの電車であえて女の子の横に座ればあらぬ嫌疑をかけられる恐れはある。

その女の子は彼の名札を見て記憶し、つきまとわれたと父親に報告したのである。

二つ先の駅で彼女は降り、彼はその後をつけたわけでもなかったが、父親は彼の通う学校の校長に「娘に彼を近づけるな」と強く抗議した。

「猥褻行為をしようとした」という訴えは言いすぎだった可能性もあるが、学校は大した事実確認もせぬまま登下校時の付き添いを言い渡した。こっぴどく親に叱られた彼は以後部屋に引きこもり、学校に行こうとはしなくなった。

人を追い詰める「性悪説」という風潮

件の教育係の女性や支援学級の男の子が一方的に制裁を受けたのはおかしくないだろうか。

遠山高史『シン・サラリーマンの心療内科 心が折れた人はどう立ち直るか「コロナうつ」と闘う精神科医の現場報告』(プレジデント社)
遠山高史『シン・サラリーマンの心療内科 心が折れた人はどう立ち直るか「コロナうつ」と闘う精神科医の現場報告』(プレジデント社)

ある法律家に尋ねると、こちらが意図していなくても相手にそのように受け取られれば問題とされ得る、とのことだった。時代が変わったとは性善説から性悪説に人の理解が変わったということか。

外来には、うつに悩む人が多数やってくる。原因はさまざまだが、恋人に死なれた、ひどい災害に遭った、同級生に殴られた、というケースは少ない。

ここに示した事例のように意図しないことで針小棒大に非難され、それを呑まざるを得ない状況が引き金になることが少なくない。

深層心理学的に、うつ状態とは我慢が行きすぎ怒りを外に出せなくなった状態をいう。日本は平和や豊かさを謳歌してきたが、学校や職場では、性悪説に基づく他罰の風潮が吹き荒れている。その中で行きすぎた対応によって濡れ衣を着せられ、うつに陥る人も多いのだ。

【関連記事】
ローマ教皇が「ゾンビの国・日本」に送った言葉
小6女子たちの"悪夢のいじめパーティー"
メンタルの弱い人ほど「ストレスの原因探し」に悩むという皮肉
産業医が教える、ストレスが強い状況下で「びくともしない人になれる」小さな習慣3つ
産業医が教える、心が揺らぎやすい人の自己肯定感を高める「正しい頑張り方」6つ