国民もどうかしていた
この本で初めて存在を知ったのだが、2015年に実施された「第6回世界価値観調査」なる(たいへん失礼ながらそのネーミングについ実在を疑ってしまいそうな、だが実在の)国際調査によると、「日本国民の73%が新聞から、94%がテレビから毎日情報を得ていることが判明」、そしていずれも「調査を実施した57カ国中で1位の数字」なのだという。
近年の新聞とテレビはオールドメディアと呼ばれて斜陽産業のレッテルを貼られてきたようだが、影響力はいまだ充分に大きい。コロナ禍でもテレビのワイドショーやニュース番組の情報は視聴者の心情と行動を逐一左右したし、見聞きした情報をまっすぐに受け止めてしまう素直な視聴者たちによって買い占め騒動が起きるなど、国民もどうかしていたのは我々の実感するところだろう。
ワイドショーやニュース番組が番組カラーとして打ち出す政治色、攻めるコメンテーターの発言に対する生放送ゆえの検証不足、素人発言の確信犯的な利用など、本書著者の偏向を割り引いても、指摘は納得感充分。ありったけの良識とリテラシーを全投入して懐疑的に読み、メディアのあり方を考えたいある種の「悪書」。