役人たちがワイロほしさに深く関与しているのではないか
一党独裁の中国で個人が日本をはじめとする海外に多くの郵便物を送るにはそれなりの手続きがいる。ましてや、表書きの中身と違う種子を発送するわけだから当局の目をうまくすり抜ける必要がある。しかも植物の種子の場合、相手国の植物防疫法に抵触する恐れもあり、個人や民間業者だけではなかなかできないだろう。
仮に中国の中央政府が知らなくとも、数が多く海外のあっちこっちに送っているだけに、種子が発送された地方の政府は不審な郵便物だと気付くはずだ。中国はワイロ社会だ。ワイロを受け取った地方政府の役人が違法な行為を見て見ぬふりをして、そこから大きな犯罪が生まれることも珍しくはない。中央政府が黙認しているケースもある。
いずれにせよ、中国の中央政府や地方政府の役人たちがワイロほしさに深く関与している可能性が高いと、沙鴎一歩は考えている。
注文した覚えもない受取人が不利益を被る可能性も否定できない
それでは産経社説に戻ろう。産経社説は後半でこう指摘している。
「植物防疫法の規定では、植物防疫官による検査を受けなければ種子などの植物は輸入できない。輸入時の検査に合格した場合、外装に合格証が押される。届け出のあった種子を入れた袋には、いずれも合格証はなかった」
沙鴎一歩は前述部分で「相手国の植物防疫法に抵触する恐れ」を指摘したが、日本の植物防疫法は未検査の植物が入った郵便物の受取人に届け出の義務を課している。注文した覚えもない受取人が不利益を被る可能性も否定できないのである。種子の入り郵便物を受け取ったら、すぐに植物防疫所に相談したほうがいい。
最後に産経社説は書く。
「種子を送り付けられた人は、通販サイトで商品を購入していなかったか。ネットショッピングは便利だが、落とし穴もある。名前や住所などの個人情報が第三者に漏れる可能性がある。クレジットカードの明細書に不審な点がないかを確認する注意も欠かせない」
不審な郵便物を受け取ったら要注意である。
社説は政治や経済、外交、防衛上の問題を取り上げて主張することが多い。だが、ときには私たちの生活に身近なこともテーマにして読者や行政、政府に訴えていくことも大切な役目だ。
その意味で「正体不明の種子」を取り上げた今回の産経社説はたいへん良かった。残念なのは、ざっと見たところ産経社説以外に「種子」を扱った社説がないことである。
なお読売新聞は8月19日付の1面コラム「編集手帳」で取り上げていたが、ぜひ社説でも書いてほしかった。