英語学習は「演技」と同じ

【三宅】高校時代はどのような英語の勉強法をされましたか? 慶應義塾大学法学部に合格されたということで、相当勉強されたかと思います。

【別所】とにかく口に出すことを意識していました。単語の暗記をするときは、普通に単語帳を使いつつも、必ず口に出すようにしました。その理由もやはり、洋楽をきれいな発音で歌いたいというモチベーションがあったからです。

【三宅】素晴らしいですね。近年、「英語はコミュニケーションの手段なのだから、単語は文章の中で覚えていくべきだ」と言われがちなのですが、基礎的な単語はやはり単語帳でコツコツ覚えるしかないと私は思っているので、ありがたいご指摘です。ほかにどんなことを?

【別所】スポーツの世界では常識となっているイメージトレーニングです。たとえば、あるフレーズが出てきたとき、「どういうシチュエーションなら、このフレーズを使うだろうか?」と考えて、そのシチュエーションになりきって実際にしゃべるようにしていました。

【三宅】そこは演技に通じるお話ですね。

【別所】そうですね。このようなトレーニングをしていたからこそ、実際の会話の場面でもフレーズが出てきやすかった、ということはあったかと思います。

【三宅】それは間違いないでしょう。お話を聞く限り、「アウトプットを前提にインプットをされてきた」という印象を受けます。

【別所】それは意識していました。

俳優の別所哲也氏
撮影=原 貴彦

「心の中で起きている動きと言葉は一体である」

【三宅】大学では英語会の活動に力を入れて、四大学英語劇大会において3年連続で賞を取られています。英語劇に進まれた動機は?

【別所】大学では好きな英語をもっと極めたいと思っていました。それと同時に、中高時代はずっとバレーボールに打ち込んでいたものですから、「大学でも体を動かしたい」と思っていたのです。その両方を実現できそうだったのが英語会の「ドラマ」セクションだったのです。キャラクターを演じるなかで、リアルなコミュニケーション手段としての英語、そしてト書きのなかにある異国の生活様式やカルチャーを読み解くことにも魅力を感じました。

【三宅】いざ演劇をやってみてどのような印象を受けましたか?

【別所】メンバーがそれぞれの役割を全力でこなしながら立体的な舞台をつくりあげていく過程は、まるで魔法のように感じました。僕の場合、それが俳優になったきっかけです。

【三宅】実際、カリキュラムに演劇を取り入れている語学教育機関もあります。私の理解では、役になりきって英語を話すため、英語の回路が脳内にできて、英語のリズムが自分のものになるというメリットがあると思っているのですが。

【別所】僕もそう思います。言葉というものは、まるで生き物のようにその人の心や感情とつながっています。もちろん単純に状況説明をするための英語もありますが、「心の中で起きている動きと言葉は一体である」ということは、舞台をやりながらずっと感じていたことです。

たとえばshrug(肩をすくめる)というジェスチャーは、日本人はしません。あるいはガッチリ握手したり、ハグしたりする文化もありません。だから、そのシーンを日本語で演じると少し違和感が出てしまうのですが、英語だと行動と言葉が連動していることがよくわかります。

【三宅】英語劇の体験は、別所さんにとって非常に大きなものだったということですね。

【別所】本当に大きかったですね。法学部で法律を学んだことも世の中の仕組みを理解するという意味で大きな学びでしたが、英語劇がきっかけで「俳優になりたい」と思ったわけですし、そのとき英語力を磨いたことが、後でハリウッド映画に出るチャンスもいただくことにつながっていきました。