iPhone生産の台湾勢が中国企業と手を組んだ
米アップルのEMS(受託製造)は今まで、台湾企業である、ホンハイ、ペガトロン、ウィストロンの3社がほぼ独占的に生産を担ってきました。iPhoneの生産シェアの概算は日経新聞の報道によれば、ホンハイ(64%)、ペガトロン(31%)、ウィストロン(5%)とホンハイが圧倒的な地位を誇っています。
しかし、7月に入り地殻変動が大きく動き出し、中国EMSであるラックスシェアが台湾企業であるペガトロンとウィストロンと資本提携。さらに、ウィストロンは中国工場の一部をラックスシェアに売却を決め、ペガトロンも傘下企業をラックスシェアに売却するとの観測報道に激震が走っています。
今まで、iPhone生産の圧倒的なシェアを誇っていた「ホンハイ」と「中国+台湾連合」の新しい対立構造が誕生したわけです。
実は、ラックスシェアは中国にある鴻海傘下の工場の女性工員の王来春氏が独立して創業した企業です。ホンハイのモデルを徹底的に学び、今年の2月にはラックスシェアがホンハイの時価総額を追い抜くまで成長しています。
ラックスシェアのiPhone本体の生産参入は悲願であり、ホンハイのライバル企業であるペガトロン、ウィストロンとの資本業務提携によってかなえたのです。特に、ウィストロンは廉価版iPhone組み立てやサプライチェーン管理の経験や技術を持っています。これらのノウハウを、ラックスシェアと共有するわけです。ウィストロンの工場の買収は年末までに完了し、来年からiPhoneの組み立て生産が始まる見通しです。
ホンハイの傘下の女性工員であった王来春氏は、広東省の農村出身で学歴は中卒。まさに、「チャイニーズ・ドリーム」を体現した人物。弟子が師匠を脅かすまでに成長し、iPhone生産のシェアを奪い取り、ホンハイの未来すら脅かすまでに成長したのです。
中国企業のEMS参入をアップルが後押し
しかも、このラックスシェアの成長の背景には、「アップルの後押し」があったとも言われています。
iPhoneは廉価版が好調であり、今後、コストをできるだけ抑えることが必要になってきます。そのためには、従来のような、台湾EMSによる独占状態では競争に限界もあり、コストを下げることができないのです。
中国企業のEMSに参入により、調達先を多様化させ、コストを下げるのがアップルの狙いなのです。日経新聞によれば、「世界販売約2億台のうち、中国で売る約3000万台は中国メーカーを中心に作らせる」とし、その担い手がラックスシェアと台湾勢ということになり、ホンハイの中国での優位が崩れることになります。
そして、今回の台湾EMS工場の買収は中国が国を挙げて推進してきたことの体現でもあるのです。習近平が2015年に「中国製造2025」を発表し、半導体や通信、自動車といったハイテク関連産業に対する産業補助金を出しています。ラックスシェアをはじめとして中国の上場企業に年間2兆円以上もの補助金が出ており、多額の資金力を持つ企業に、台湾EMS企業はなびくことを選んだのです。中国の補助金政策は、中国が海外企業や技術を買収する資金になっている側面があります。