20世紀を代表する政治家チャーチルと安倍首相の演説を比較する
まず、チャーチルとはどんな人物だったか、おさらいしておく。
ウィンストン・チャーチルは、イギリス名門の生まれ。中学時代は古典が嫌いで成績がパッとせず、落ちこぼれの行く士官学校に進んだ。ここが水に合って軍人になり、英語も勉強して小説を書いた。そして政治家に転じている。
第一次世界大戦(1914年7月~1918年11月)のときには、戦車を開発して、戦場に投入した。飛行機にも注目した。ヒトラーが再軍備を始めると、ドイツを警戒すべきと説いて回った。
1938年当時、チェンバレン首相(保守党)は、ヒトラーとミュンヘンで交渉し、これ以上の領土要求はしないと約束をえた。戦争が避けられたとみな喜んだ。ところが翌1939年9月1日、ドイツはポーランドに侵攻した。約束違反である。イギリス、フランスはドイツに宣戦布告して、第二次世界大戦(1939年9月~1945年9月)が始まった。
チャーチルは9月3日、海軍大臣に就任した。その日の下院での演説は、だいたいこんなふうだ。
《いよいよ戦争です。これまで平和のために努力を尽くしたのが、せめてもです。この努力は、道徳的価値があった。現代の戦争は、厳しく辛いのです。何百万もの人びとが、協力しあい、心を合わせるのでないと、とても乗り越えられません。道徳的な確信があればこそ、ねばり強さが生まれてくるのです》
《きっと何回も、気落ちするでしょう。思いがけない、嫌なことも起こるでしょう。でもそうした試練がこの国を見舞うのだとしたら、願ってもないチャンスです。いまの若い世代も、偉大な父祖たちにひけを取らないのだと、証明できるのですから》
《この戦いは、ナチスという病毒から、この世界を守るため、人間にとって大切なものを守るための戦いです。人びとの権利を、しっかりと打ち立てるための戦いです。戦争を進めるため、大切な自由や権利を制限する法律を、いくつも通しました。そうするのは、大切な自由や権利が確かにまたわれわれの手に戻ってくる日が来ることを、また、まだそうした自由や権利を手にしていない人びとがそれを共に手にできる日が来ることを、確信すればこそなのです》
この日のチャーチルのスピーチは、短い。原文でも、三段落しかない。