対日依存の変わらぬ2素材
2)他の2つはどうだろうか。フッ化ポリイミドは、結局個別輸出許可の対象となったのは一部だけで、対日輸入額に影響はほとんど表れていない。つまり、対日依存度は変わっていない。最後のフォトレジストは少し複雑だ。「見直し」の対象は、同じフォトレジストの中でも次世代EUV(極端紫外線)向けのそれに限られ、数量ベースでは全体の1%未満だ。
JSR、富士フイルム、東京応化工業、信越化学など日本企業が世界市場の9割を占め、これが入手できないと、「世界市場トップの台湾TSMC社を追撃するサムスン電子の次世代成長力に影響しかねない」(朝鮮日報)素材である。
「見直し」以降のフォトレジストの輸入額は、7月に駆け込み需要で急増した後でしばらく減少した。しかしその後、8月に最初の輸出許可が下り、さらに日韓の特定企業どうしに限って最長3年の許可を一括して得られることになり、最近はほぼ元の水準に戻ったという。ベルギーからの輸入額が前年比431%と大きく増えている(韓国貿易協会)が、これはサムスン電子がJSRとベルギーの研究機関の合弁会社からの調達を増やしたからで、日本への依存は実質的に今も続いているといっていい(前出・日本総研リポート)。
「当事者間の混乱はおおむね収まっていた」
こうして振り返ると、今にも韓国や世界の半導体産業に打撃を与えるかのような当時の報道とは少なくないズレを感じる。日本の“圧勝”ではないし、かといって文在寅氏が言うように何もかも日本依存から脱却したわけでもない。
なぜ、日韓双方でこうした誤解や混乱が起きたのか。日本の安全保障貿易情報センター(CISTEC)は、「見直し発表当初こそ日本の輸出企業に問い合わせが多数あったものの、然るべき説明に納得し、当事者間の混乱は概ね収まっていた」「輸出規制的な話では元々なく、日本の輸出管理制度運用に関する基本的誤解によるものだということは、日本の輸出管理当事者であればすぐわかる」という。
しかし、これが政治問題化したことから、前述の3品目以外でも、対日依存度が高い品目が規制対象となるという誤った認識から危機感が煽られ、ついには軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄などという違う次元の問題にまで発展してしまった、とCISTECは指摘している(以上、「日韓間の混乱を招いた安全保障輸出管理に関する誤解」2019年9月)。
この「見直し」が偶然ではなく意図的に政治問題化された、と指摘する声は昨年からあった。米国は、急速な成長の途上にある中国半導体産業に神経をとがらせており、韓国を通じて稀少な素材や知的財産の流出があれば日本を通じてそれをけん制しストップさせるのは当然……という理屈だが、その明確な証左となるものはない。そもそも両国の仲介に乗り出したのは米国のマイク・ポンペオ国務長官であった。