6800億円で「戦略品目100の国産化目指す」

1カ月後の8月2日、日本政府は輸出時のさまざまな手続きを簡略化する優遇措置の対象国(ホワイト国)から韓国を外すことを閣議決定した。ホワイト国であれば当然、輸出品の最終需要者が韓国ないし韓国企業であるのが当然。ゆめゆめよその国に転送・転売などしない……はずだが、はたから見た限りでは限りなく黒に近いグレーというわけだ。

前述のフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の、昨年1~5月のおのおのの対日輸入依存度は、それぞれ93.7%、91.9%、43.9%(韓国貿易協会)と非常に高い。7月以降は、数カ月分しか在庫のなかった韓国半導体メーカーと、すぐには調達できない日本素材メーカーとの間で、小さくない混乱が起こったとも伝えられた。

韓国はこの「見直し」を、日本企業に元徴用工に対する賠償を命じた韓国大法院の判決に対する報復であり、「輸入規制」だと受け取った。危機感を募らせた韓国は、直後に主要な部品・素材の国産化を目指す100品目を戦略品目に指定。7年間で7兆ウォン(約6800億円)かけて国産化することを決めた。中でも前述の半導体材料の3品目を含んだ20品目については、1年以内とリミットまで定めた。3品目以外の対日依存度が高い品目も「規制」対象となると勘繰った末の決定だったようだ。

韓国フッ化水素メーカー株が急騰

実際に1年経過した今、韓国の「脱日本」は進んだのだろうか。何となく「日本でしか製造できぬ高品質製品が輸入できなくなって、韓国半導体産業は困っているだろう」と認識している向きもあろうが、主要3品目に絞って簡単に結果だけ示してみよう。

1)フッ化水素は韓国が自足度を高め、日本企業がシェアを落とした
2)フッ化ポリイミド、フォトレジストは、韓国の対日依存の状況に大きな変化はない

まず、1)。素材3品で大きく影響を受けたのはフッ化水素である。半導体製造は500以上に細分化された工程の中で様々な純度のフッ化水素を使うが、韓国はそのうちステラケミファと森田化学工業の日系2社でしか作れない99.9999999999%(トウェルブナイン)という超高純度のものを輸入していた。しかし「見直し」後は、日本からの輸入が急減。年明けの1月8日まで約半年間、個別輸出の許可が下りなかった。これは、やはり前述の日本への逆輸出分が行方不明となったことなどがネックとなったと思われる。

昨年通年の輸入額は前年比45.7%減、個別輸出の許可が出た後も前年比2割程度の低い水準にとどまっているのは、輸入先が主に台湾に変わったことと、韓国国内での国産化が進んだことがその原因だという(日本総研2020年6月25日付リポート、JETROビジネス短信)。脱日本化が成功した、というわけだ。森田化学工業の森田康夫社長は、「日本企業のシェアが下がりかねない」と危惧していた(日経新聞2019年8月8日付)が、それが現実のものとなってしまった。

実は、韓国の一部半導体材料メーカーのうち、過去1年間で株価が急騰したのがソウルブレイン、ラムテクノロジーの2社。いずれもサムスン電子やSKハイニクスに対するフッ化水素の安定供給が奏功したという。韓国特許庁は同15日付で、ソウルブレイン社について「日本の対韓輸出規制により大きな打撃を受けた」ものの、今年1月には「政府支援と独自の技術力で12N以上の液体フッ化水素の大量生産および国産化に成功して滞りなく供給することができた」と自賛している。純度そのものはまだ日本には及ばぬものの、かなりの水準に達しているといわれている(前出・日本総研リポート)。