ダッソー・システムズは、コンピュータで設計を支援する3D(三次元)‐CAD業界のリーディングカンパニーだ。同社が提供する3DCAD技術の領域は、飛行機、自動車、ファッション、日用品まで及ぶ。そしてその顧客はボーイング、トヨタ、ホンダ、ベネトン、P&Gなどの世界の一流企業が採用するなど、今や製造業の基幹を握る会社なのだ。同社のジェフ・レイ上級副社長に、3Dで変わるモノづくりの現場と、その未来について聞いた。
――ユーザーイノベーションの発想を御社の製品である3Dソフトウエアに取り入れましたが、このコンセプト(概念)を説明してください。
「ユーザーイノベーションとは、人々(顧客)が持つ創造性をモノづくりの開発過程から反映させ、新たな価値創造につなげていく考え方です。例えば、消費者は大量生産品に対しても、自分にとって特別な価値を求めています。だからこそ、製品開発の段階から、消費者の声をどんどん取り込んでいくことが重要なのです」
――御社はユーザーイノベーションの一環として、ソーシャルネットワーク(SNS)の概念を採り入れて、「知識の共有」を目指しています。
「“see what you mean”の頭文字をとったSwYm、「3DSwYm」という製品で知識の共有を実現しています。主にデザイナーやエンジニアの方に、コミュニティを形成してもらう。コミュニティの参加者はイミテーション(模造品)をもとに、製品設計に自由に参加します。このようにコンテンツを共有できる環境をつくりました」
――一般的に、「3D」技術は、イメージしにくい面があります。例えば、デンマークの玩具メーカーのレゴはユーザーイノベーションを積極的に活用している会社として有名です。SNSのフェイスブックのようなビジネスモデルを、モノづくりの世界に応用したと考えていいですか。
「その通りです。コンテンツをより使いやすいものに変えるには、消費者がバーチャル(仮想)な世界で製品を体感できる仕組みが必要です。例えば、消費者に3Dメガネをかけて仮想の店舗に入っていただき、仮想の空間で買い物を体験してもらうのです。消費者は、商品を買うかどうかを数秒で決めるので、3Dで製品をいかに魅力的に見せるかも、ビジネスの勝敗を決める重要な要素です」
――御社は、飛行機や自動車などの設計支援からスタートした会社ですが、最近はハイテク製品や消費財など幅広い業種に対象を広げています。
「現在、11業種、世界650社に弊社の「3D」技術を採用していただいています。その中でも新しい業界は、医療やヘルスケアなどです。これまで彼らのニーズに合ったソリューションやソフトウエアを提供できていなかったのですが、最近になって可能になりました。最近、この領域での利用が拡大しており、成長が著しい業界になっています」
――例えばその医療業界で、「3D」技術が応用できる例はありますか。
「わかりやすい例は、衝突実験です。自動車で衝突が起きたときに、人間の内臓にどれくらいの被害を与えてしまうか、またどの部位の肋骨が折れてしまうか、といったシミュレーションができるようになったのです。こうした技術はすでに医療機器メーカーに使っていただいています。FDA(米食品医薬品局)の承認を得る際にも、デジタルで加工したデータをそのまま提出できるようになりました」
――「3D」技術の世界で、将来はどのようなことが可能になりますか。
「バイオテクノロジー分野における分子レベルのシミュレーションも、将来的には可能でしょう。もしそれが実現すれば医療やヘルスケアの世界で大きな貢献につながりますが、残念ながらこの分野の研究開発はまだまだ緒に就いたばかりです」