ジョブズが愛した日本人禅僧の謎の生涯を追う

あのスティーブ・ジョブズに深い影響を与えた日本人の禅僧がいた。その謎の死を知ったとき、ジョブズはすすり泣いたという。この本はその男、乙川弘文の数奇な人生を浮かび上がらせた作品である。

著者の前に姿を見せた弘文は、2つの姿を持っていた。日本における弘文は、非の打ちどころのない禅僧だった。

「京大時代の日記とか修論にしても、非常に生真面目なものなんですよ。永平寺時代の仲間に聞いても生真面目なんです。しかも一生独身を通すと誓っている人ですから」(柳田由紀子氏、以下同)

ところがアメリカに派遣された弘文は、結婚して子供をつくり、酒を飲んでは家族に暴力を振るうようになる。一体、弘文に何が起こったのか。

「ヒッピーとか、フリーセックスとか、人間の本能に忠実に生きる『生命』っていうものを感じたんだと思うんです。だから衝撃も受けた」

そんな弘文を迎えたのが、アメリカ各地にある正統な「禅センター」からあぶれた人たちだった。ジョブズにしても相当な変人だが、そうした人たちを、自分も落ちていく中で救っていく、そうした宗風に変化していった。