日本企業の粘土層を動かしたい
前著『ダークサイド・スキル』がビジネスパーソンの間で大きな話題を呼んだ。今回は経済学者の柳川範之東大教授との共著である。書籍化のために2019年の夏頃から「1回あたり2~3時間の対話を6~7回繰り返しました」という。
戦略コンサルタントの木村氏が現場の状況と課題を提起し、柳川氏が理論に落とし込む。当代を代表するスペシャリスト2人が緻密なやり取りを繰り返す対談集だ。
テーマは、変化の激しい時代における「ミドルの覚醒」。かつてのリーダーは「ハンコを押すだけ」でよかったが、いまは確実な情報が揃う前の段階で「果敢に決める」必要がある。その心構えが日本のミドル=管理職には乏しいというのが両氏の問題意識だ。
しかし経営トップではなく、管理職に焦点を当てるのはなぜなのか。
「近年の日立製作所やパナソニックの変貌ぶりを見ればわかりますが、00年のITバブル崩壊、08年のリーマン・ショック、11年の東日本大震災を経験した日本の企業トップは、経営への強い危機意識を持っています」
「一方、そんな中でもシビアな現実から守られてきたのがミドルです。トップの意識が改革型に変わっているのに、ミドルが従来的な改善型にとどまる組織を私は『粘土層型組織』と名付けましたが、粘土層のミドルにこそ変わってほしい」
改革型のトップが笛吹けど、現場は踊らず。木村氏の体感では、このタイプの組織は全体の30%に上るという。
では、ミドルはどう変わるべきか。本書の後半で具体論が明かされる。「20代・30代の友達を作れ」「現役感を手放すな」「ムカつく奴をチームに入れろ」……。それは単にミドルとして生き残るための方策ではない。トップとして、組織を率いるための条件でもあることを見逃してはならない。
木村尚敬
経営共創基盤(IGPI)共同経営者マネージングディレクター
ベンチャー企業経営や大企業の事業戦略策定などを経て現職。慶大卒。米ハーバード大学ビジネススクールなどを修了。著書に『ダークサイド・スキル』など。
経営共創基盤(IGPI)共同経営者マネージングディレクター
ベンチャー企業経営や大企業の事業戦略策定などを経て現職。慶大卒。米ハーバード大学ビジネススクールなどを修了。著書に『ダークサイド・スキル』など。
(撮影=的野弘路)