●池谷先生からのアドバイス

子供のころ、毎朝、歯を磨くことを面倒に感じたことがある人は多いと思います。しかし、大人になって歯磨きを嫌がる人はほとんどいない。むしろ磨かないと気持ち悪いという人のほうが多いはずです。これは、歯磨きという行為がルーティンワーク化されたからです。

ルーティン化には、無意識の記憶を司る線条体や小脳が関与していると考えられます。毎日の習慣にすれば、朝のこまごまとした身支度が苦にならなくなるのも、無意識が勝手にやってくれるからです。ルーティン化は、面倒なことをやるのに非常に強力な方法なのです。

朝の仕事も同じです。朝出社して「今日はどの作業から取りかかろうか」と考えているようでは、仕事は思うように捗りません。大切なのは、意識に立ち上らないレベルまで習慣化してしまうことです。例えば「まずメールチェックをして、次は予定表を書く」というように、やる作業を固定して毎日繰り返せば、いずれ苦もなくこなせるようになります。

ルーティン化は、慌ただしい朝を過ごす人ほど効果的です。脳には「ワーキングメモリー」という短期的な記憶を処理するメモリーがあります。ワーキングメモリーは意外に容量が少なく、1度に意識できることは七つ程度が限度だといわれています。一方、無意識の記憶に制限はなく、無意識の領域に仕事をさせれば、より多くのことが同時並行で処理できます。この性質を利用しないのはもったいない。毎日やるようなこまごました仕事は、ルーティン化することで脳の無意識に任せてしまいましょう。