弁護士費用は経理担当者さえ何の支出か分からない費目に
寄せられた情報によれば、記事で触れた女性社員Aさんの身に何が起きたのか社内で知らされることもなければ、話題にすることもためらわれるタブーになっているとのことだ。PwC内部ではAさんに関連した訴訟で発生した弁護士費用が目立たないように処理され、経理の者さえ何の支出か分からない費目になっていた。弁護士費用として計上してよいとの指示が出たのは、2020年6月期末が迫った頃からだったという。
さらにAさんに対する人事評価でも機微に触れる部分は社内でメールのやり取りはせず、「口頭のみや、短期間で履歴の消える社内チャットツールを使っている」(PwC関係者)と言うから、組織ぐるみでパワハラを行い、これを隠そうとしていると見られても仕方ないだろう。
こうした内部情報の提供は量が増えるとともに多角化しており、点が線になり、線が面になった。面はすでに立体になりつつあると言っていい状況である。今後は告発内容がさらに多角的かつ重層的になるだろう。パワハラが社員の心と体を疲弊させ、通院している社員や、退職を余儀なくされた社員も少なくない。それだけに社内の不満が鬱積しているのだ。しかし社員を退職に追い込んだ幹部が昇格しており、特にマネジャー職以上に問題が多いという。
まるで「オリンパス事件」を上からなぞるような展開
PwCのパワハラ問題で特徴的なのは、記事を読んで情報提供を申し出た人たちのうち、女性の割合が高いことだ。PwCに女性社員が多いことばかりがその理由ではあるまい。パワハラは古い時代の男社会が抱え続けてきた長患いの病いであり、これに女性が反旗を翻し始めたのではないか。そしてこれは「組織が持続可能性やガバナンスの健全さを保つためには、多様性を重視して取締役に女性を積極的に登用せよ」という社会や投資家の要請にも通じているのだろう。
彼女ら告発者は思い出させてくれる。ちょうど9年前の今頃、筆者がオリンパスの損失隠しをスクープしたときの展開を。オリンパスの社員たちのうち、ある者は「極秘」と印が押された決定的な内部資料を筆者に提供してくれたが、これはほんの序の口だった。別の社員はICレコーダーで録音した社内会議の音声データをUSBメモリに落として匿名で筆者に郵送してくれたし、印刷した痕跡を残さないためにパソコンの画面をこっそりスマートフォンで写し、フリーメールのアドレスを用いて送信してくれた社員もいた。
告発者のデジタル武装化が進んでいる今、漏れては困る秘密を完全にガードするのは不可能と言っていいだろう。現に前回記事で登場した、パワハラの被害者である女性社員のAさん本人さえ入手できない内部資料も手に入った。
情報提供者らはPwCグループ内の複数の合同会社にまたがっており、互いに見ず知らずの間柄だが、「このままではいけない」という意識を共有し、口々にそれを筆者に聞かせてくれた。オリンパス事件を上からなぞるような展開だが、今回の場合、情報提供者がヒートアップするのは、オリンパス事件よりもはるかに早い。