「総務の仕事は定量化できない」という反論が返ってきたことがある。しかし、たとえば総会担当だったら、来場者に満足度調査を実施し、進行や質疑内容などを5段階評価してもらえば定量化できる。「総務だから」は言い訳にすぎない。

部下には自分の仕事を定量化させる。定量化する工夫をさせる。定量化できない仕事はない。逆に自分の仕事を定量化することが、自分の存在を周囲に知らしめるのである。そして上司は上司で部下の仕事を定量化して評価し、適材適所というものを実現してゆく。そこは“機関”であって、好き嫌いではない。

清水次郎長とは逆の方法で叱る

リーダーともなれば、好き嫌いを表に出してはいけない。前述のように自分が好きになるタイプが30度であれば、3年後には45度まで好きになり、部長になったら120度、役員になったら210度の人が好きになるように努力する。私自身、そうやって社長になったのだ。

ただし、言うべきときは言う。人前で褒めて陰で叱るのが清水次郎長だが、私は逆。皆が見ている前で厳しいことを言う。同じ間違いをしてほしくないからだ。その後は子供を叱った後と同じ気持ちで、しっかりフォローする。「今日の会議では厳しいことを言ったけれど、含むところはない。今日のテーマはあなたが得意な分野ではなかったが、他の分野ではあなたにいつも教えられているんだ」とケレン味なく言えなければいけない。

私はもっぱら電話でのアフターフォローが多いが、飲みに誘うのもいいだろう。30年前、私たちは上司からよく居酒屋に誘われたし、私たちも喜んでついていった。今にして思えば、あそこがビジネススキームの伝承の場だった。1970年代の日本経済の強さの源泉だったのである。今やそれが廃れてしまっている。

本来、中間管理職は下に対しては指導し、勇気づけ、技術を伝承し、上に対してはへつらうことなくインテリジェンスあるアイデアを提言できる組織のキーマンである。健全な中間管理職層が日本式経営の魅力の一つだった。特に製造業において、新米とマネジメントだけでは技術の発掘も技術の改革もなしえない。日本の製造業はオペレーションの中から技術開発のタネを探り当ててきたのだ。世界の中で日本流の新しい強みを獲得するために、ミドル復権は欠かせない。

(小川剛=構成 永井浩=撮影)