富士フイルムHDは、急激なデジタル化の波を受け、以前は利益の6割を占めた写真フィルム事業を一気に縮小。医療や印刷など成長分野へ舵を切った。「第二の創業」を図る豪腕社長の部下指導法はどのようなものか。

会社のために半年だけ死ぬ気で働いてみろ

上司がいくら指導をしても部下の力が伸びないのは、本人の自覚のなさに起因することが多い。「自分はこのままではいけない」「何かを変えなければならない」という自覚があって初めて上司の指導が生きる。部下の成長は本人の自覚7割、指導3割といったところだろう。

<strong>富士フイルムHD 古森重隆 社長</strong>●1939年、長崎県生まれ。東京大学経済学部卒業後、富士写真フイルム(現富士フイルムHD)入社、95年取締役、99年常務。2000年社長就任。07年、NHK経営委員会委員長に就任。
富士フイルムHD 古森重隆 社長●1939年、長崎県生まれ。東京大学経済学部卒業後、富士写真フイルム(現富士フイルムHD)入社、95年取締役、99年常務。2000年社長就任。07年、NHK経営委員会委員長に就任。

では、どうすれば、部下の自覚を喚起できるのか。基本はサラリーマンとはどのような存在であるか、もう一度認識させることだ。会社組織には「会社のため」という会社が主語になる世界と、「自分のため」という個人が主語になる世界がある。この折り合いがつかないとこんな疑問がわき上がってくる。「自分は何のために仕事をしているのか」「仕事と人生は両立するのだろうか」……。

私も以前、部下から「会社の仕事だけが自分の人生なのでしょうか」と相談されたことがある。私は答えた。「半年でいい。会社のために死ぬ気で働いてみろ。仕事と人生をどう両立するかわかるぞ」。その後会うと、「わかった気がします」と晴れ晴れとした表情が印象的だった。

私自身、これまでずっと会社のためにベストを尽くしてきた。結果、自分も成長できた。会社のためにベストを尽くすことは自分のためにベストを尽くすことであるとわかると、サラリーマンにとっての1つの問いが解ける。ここに自覚が生まれる。自分は会社に貢献しているか。中途半端な仕事をしていないか。自覚は謙虚さと学ぶ姿勢をもたらす。謙虚に学べば、あらゆるものからヒントを察知できるようになる。すると、学んだことを試す場面が必ず出てくる。そこで結果を出し、その経験からまた学び、より大きな場面で成果を出す。こうして「よいスパイラル」に入れば、仕事と自己実現が限りなく一致するようになる。

普段は小さなスパイラルの繰り返しだが、あるとき大きなチャンスが訪れる。大きくスパイラルを回し、一気に力をつける。このとき、自分が「社会のため」にも貢献していることに気づけば、人間としても成長できる。サラリーマンの人生にはそんなチャンスが3~4回ある。私もそれらのチャンスを経て、今の自分がある。上司の大切な役割は、部下をこういった「よいスパイラル」へと巻き込んでいくことだ。