毎年8月16日に実施「五山の送り火」も今年は大幅縮小だが……

祇園祭に続き、毎年8月16日に実施する「五山の送り火」も今年は原型をとどめないほど縮小する。今年は、なんと「点」にするという。

「送り火」は「迎え火」と対をなす。迎え火はお盆の入りの時期に、墓地の入り口などで火を灯し、死者の魂を迎える儀式。そして、送り火では、京都盆地の周囲にある5つの山に火を灯して、ご先祖さまにあの世に戻っていただくのだ。

器に入れた水に送り火の炎を映して飲めば、1年間、無病息災で過ごせるという言い伝えもある。そのため、京都人の多くが屋外に出て、送り火を拝む。送り火にあわせて帰省する人も少なくなく、山の見えるレストランやホテルでは観光客相手にさまざまなプランを打ち出す。

京都人の送り火に対する本気度はかなりなもので、ホテルやマンションの建設などで送り火が見えなくなった場合は大クレームが出る。その対策として、屋上を近隣の住民に開放して事なきを得る。京都市内で最も高層(高さ60メートル)の京都ホテルオークラなどでは毎年、「五山送り火の夕べ」のイベントが開催される。

昨年はおよそ2万8000人の人出があった。送り火を文字に造形して灯すと、眺望のよい場所にはどっと人が集まることだ。だからこそ、今年は苦肉の策として「点」にする。

本来、5つの山には「大文字」「左大文字」「妙・法(2つで1山)」「船形」「鳥居形」が灯される。地元の保存会が山にまきを上げ、何十という火床に一斉に着火する。つまり「点」の集合で文字を浮かび上がらせている。

「できる限り見学は控えて、自宅で手を合わせてほしい」

私の寺からは「鳥居形」が見えるが、燃え盛る炎は幻想的であり、迫力に満ちている。翌朝は山に登って燃え残りの炭を粉末にして服すると、持病が治るとの言い伝えがある。コロナ禍においては、むしろ実施してほしい儀式であったのだが……。

鳥居型の送り火。
撮影=鵜飼秀徳
鳥居型の送り火。

送り火の起源については平安時代に空海が始めたとも、室町時代に足利義政が考案したとも言われているが、定説はない。江戸時代には「一」「い」「蛇」「長刀」「竹の先に鈴」など計10の山で送り火が行われたという。「アフターコロナ」にはぜひとも、6山以上の送り火を期待したいところである。

送り火でもっとも有名な「大文字」の由来は仏教における万物を構成する五つの元素「空・風・火・水・地」を、五大(「空」を除いて四大、「識」を加えて六大とも)と定義。そこから「大」の字が取られたとする説や、そもそも「人」を象っており、そこから転じて「大」となったとの別説もある。

「大文字」は火床75カ所で浮き上がらせるが、今年は中心と頂点、端の6カ所のみに。ほかの文字は1カ所のみの点火となる。山の近隣だと、「点」が見えなくもないだろうが、保存会は「できる限り見学は控えて、自宅で手を合わせてほしい」と話している。