在庫にも維持費がかかる自動車の難しさ
計画することが悪いのではなく、消費者が製造会社の思うとおりの行動をすることはないのが現実であり、リアルな社会だ。
逆に計画が外れ、売れて売れて部品が足りなくなることだってある。部品を仕入れて製品を作ればいいのだけれど、そうはいかない。あらためて部品会社に発注しなければならない。半年くらいは過ぎてしまう。商品が手元に来るのに半年以上もかかるのだったら、消費者は「もういらないよ」と言うに決まっている。
計画以上に売れてしまい、追加で生産したものの、結果的に余ってしまったら、在庫として抱えるしかない。しかし、余った在庫はまず売れない。かといって、大安売りしたら、定価で買った客からクレームが来る。
また、自動車は高額な商品だから、野ざらしにするわけにはいかない。倉庫を借りて置いておくしかない。けれど、倉庫で大切に保管したからと言って、売れるわけではない。赤字の上に倉庫代がかかってしまう。倉庫を管理するための人件費だってバカにならない。
そうならないための生産方式がトヨタ生産方式だ。
「ムダをなくして、売れる分だけ作りたい」
それがトヨタの考え方である。今ではどこの製造会社も在庫を持たないで、売れる分だけ作る方針に変わっている。押し込み生産を続けている会社はムダをムダとも思わない会社だけだ。
寿司屋の「おまかせ」のような5つの特徴
実際に日本国内で売っているトヨタの自動車は注文生産だ。シートの色、オプションなどを聞いておいて、その通りに作る。
寿司屋が注文に応じて、トロや赤貝を握って出すのと同じことを製造業でやってしまったのがトヨタだ。つまり、売れ残りや在庫はない。たとえ、売れなくなっても損にはならないような生産体制だ。
トヨタ生産方式の特徴を要約すると次のようになる。
②不良品を出さないよう「自働化」と呼ぶ方法を用い、異常の検知をラインのなかで行う。つまり、良品だけを後の工程へ流す。
③そうして、つねに「カイゼン」していって生産性を向上する。
④押し込み生産をしてとにかく製品を作ってしまうのではなく、「後工程引き取り」と呼ぶ、後ろの工程が「材料をくれ」と言ってきてから、初めて原材料やユニット部品を流す。
⑤在庫をゼロにするのではなく、在庫を少なくし、しかも、その量をつねに一定に保つ。
製造業では長いこと押し込み生産の大量生産が続いていたが、トヨタ生産方式が評価されてからは、多くの工場、物流企業で採用されている。日本だけではなく、また工場現場だけでなく、ファーウェイ、アマゾンといった会社が熱心にトヨタ生産方式を研究し、採り入れている。