「人間を無視したやり方」と非難される理由

ただし、長い間、というか現在でもトヨタ生産方式は労働強化と人員削減のシステムのように思われている。

「人減らしとラインのスピードを上げて生産性向上を目指す、人間を無視したやり方だ」

ずっと、そう非難されてきた。

なぜ、誤解が広まっているのか。それは、一般の人にとっては生産方式の違いなど、気にすることではないし、よくわからないからだ。

自分が当事者ではない限り、人は「押し込み生産」であろうが、「トヨタ生産方式」であろうが、そんなことはどうでもいいと思っている。

加えて、トヨタ生産方式を解説した本はたくさんあるけれど、どれも客からの視線、客にとってはどんなメリットがあるのかを書いていなかったからだ。生産する側の論理で、理屈をまとめたものだから、マスコミや一般の人は「トヨタ生産方式」を敬遠したのである。

他社より安く、フレッシュな状態で納車する

では、トヨタ生産方式は客にとって、どういったメリットがあるのだろうか。

同じ性能、同じ装備の車であればトヨタ製の車の方が他社のそれよりも間違いなく安い。トヨタの車が売れているのはそういうことだからだ。

もうひとつある。それはフレッシュな車が手に入ること。ジャスト・イン・タイムで作り、できたものをすぐに客の元へ運んでくるから、トヨタの車はフレッシュだ。長くヤードに置いておくと、車の下回りは汚れる。屋外に置いた車に雨が降ったりすれば雨滴のレンズ効果で塗装品質は落ちる。

一方、生産されたばかりの車がすぐに家に届けられて、それを大切に乗っていれば車は傷まない。下取り価格は高くなるから、結果としては車を安く買ったのと同じだ。

トヨタ生産方式とは客が得するシステムなのに、これまでも、今でも、トヨタ自体でさえ、そのことを言ってこなかった。

社内の人間も、客にとってのメリットを、わかってはいるものの大声で主張してこなかった。トヨタの従業員は変なところで遠慮気味だ。

「トヨタ生産方式はお客さまが得するシステムです。なぜなら……」

この点から説明すればよかったのである。

従業員に対し「エラそうな態度はとるな」

トヨタの幹部は従業員に厳しく教育している。

従業員は「トヨタは大企業だからと胸を張るな、エラそうな態度はとるんじゃない」と幹部からつねに叱責を受けている。だから、自社のいいところ、客が受けるメリットを公言してこなかったのかもしれない。

しかし……。トヨタの人間のなかには、幹部からの教育効果もなく、エラそうなやつもいることはいる。まあ、それはともかく、本稿では「客が得するシステム」から生まれたカイゼンのヒントをまとめた。むろん、トヨタの例だけではない。わたしが見つけた世の中のカイゼンのヒントを記載してある。

そうして、カイゼンのヒントを知っていると、客も得をするし、カイゼンした人自身も得をする。