「How are you?」は状況によって意味が変わる

【池上】でも、ジョークにならないこんな実話もあります。海外の寝台列車に乗り込んで、指定された上段のベッドに上がろうとした日本人男性がいた。下段に先客の女性がいたので、「私はこの上です」というあいさつのつもりで「on you」と言ったら、突然女性が怒り出した。「on」は「接触」を意味するので、そのシチュエーションで使うのは、非常にまずかったわけです(笑)。ともあれ、冠詞とか前置詞とかは、日本人にはなかなか感覚として捉えづらいですよね。

【佐藤】そういう感覚的なものは、日常的にネイティブな環境にいないと難しいでしょう。

我々が英語を機械的に教えられていた例をもう一つだけ挙げておくと、「How are you?」をどう訳すのか?「ご機嫌いかが?」と暗記したのだけれど、これは場所や状況によって、訳し変えないといけないのです。

【池上】ああ、まさにその話で思い出すことがあります。昔、まだ南スーダンが独立する前のスーダンに取材に行った時のこと。ホテルの部屋に毎朝、現地の人から「How are you?」と電話がかかってきたのです。ずいぶんていねいな扱いをしてくれるんだなあ、と思っていたら、ほどなくそうではないことが分かりました。実は当時、日本では新型インフルエンザが流行していたのです。要するに、外から見ればウイルス汚染国だった。

【佐藤】新型コロナウイルスのように。

今の教科書からは「生きた英語」が学べる

【池上】そういうことです。だから、入国の時に問診票のようなものを書かされていた。彼らにしてみれば、「危険な国」からやってきたわけの分からない民間人に、母国に恐ろしいウイルスを持ち込まれたりしたらたまらない。それで毎日、「今朝の具合はどうだ?」と、私に尋ねていたわけ。軽い気持ちで「今日はちょっと頭が重くて」なんて返していたら、大きな騒ぎになっていたかもしれません。

【佐藤】その使い方が、さっきの「Daily Scene」に出てくるんですよ。学期のはじめ、慣れない環境で体調を崩した前出のエリカに、アメリカ人の父が声をかけるというシーン。

Erika, how are you today?
Not so good.
What’s wrong?
I have a headache.
Take this medicine, and take a rest.
Thank you, Dad.

〈東京書籍1 64~65ページ〉

【池上】素晴らしい。この教科書で学んでからスーダンに行くべきでした(笑)。

【佐藤】かつての「How are you?」と言えば「I’m fine, thank you.」という決まりきった受け答えと比べて、どちらの実用性が高いのかは、一目瞭然でしょう。今の教科書からは、こういう生きた英語が習得できるのです。